先日紹介した、改変2型パラインフルエンザウイルスBC-hPIV2に病原体の遺伝情報を持たせることができれば、一回限りの感染と遺伝子発現を利用して、対象に免疫をつけることができるはずだ。
A versatile platform technology for recombinant vaccines using non-propagative human parainfluenza virus type 2 vector
Ohtsuka et al (2019) Sci Rep
https://doi.org/10.1038/s41598-019-49579-y
2019年の論文では、著者ら三重大/バイオコモの人たちはエボラウイルスに対するワクチンを試作している。
エボラウイルスのGPというタンパク質の情報をBC-hPIV2に持たせた“ワクチン”を作成し、マウスに筋肉注射で3週間ずつの間隔を開けて3回注入した。
さらに3週間後にマウスの血清を回収して、エボラウイルスの感染を抑える効果があるかを確認している。
↑上段a:hPIV2ワクチンの接種スケジュール。中段b:ワクチン済みマウスの血清がエボラのシュードタイプウイルスの感染を抑えるかどうか。BC-PIV2/EBOV-GP(エボラのタンパク質を入れたワクチン)では感染抑制がみられる。PBS(ただの塩水)とBC-PIV2/EGFP(全然違うタンパク質のワクチン)ではその効果はない。下段c:ADEの発生を白血球細胞で確かめる実験。BC-PIV2/EBOV-GPでは若干ADEが起きている。
厳密にいうと本物のエボラウイルスを使って実験は危険すぎるので、別のウイルスにエボラウイルスの外側のタンパク質を持たせた偽エボラウイルス(シュードウイルス)を使う実験系を用いている。
これならば感染したとしても毒性がないため、安全に実験が可能だ。
この実験で、BC-hPIV2ワクチン済みのマウスの血清を使えば、Vero細胞にシュードタイプウイルスが感染するのを防ぐことができると確かめられた。(上図のb)
血清の濃度が十分であれば、シュードタイプウイルスの感染を1/10に抑えることが可能だ。やったね。
ただし、著者らはワクチンの安全性の観点から、抗体感染増強(ADE)の可能性についても実験している。
ADEというのは、ウイルスに結合する抗体があることで、条件次第ではかえってウイルスが細胞に感染して増殖しやすくなってしまうという現象のことだ。
ワクチンの安全性と言う観点からは非常に重要だ。
著者らは、白血球由来細胞(K562細胞)を使うことで、ADEが見られるかどうかを検証している。
白血球のような免疫系の細胞はもともとFcレセプターというタンパク質を使って抗体を取り込みやすい性質をもつ。
そのため、抗体がウイルスに結合すると、ウイルスごと抗体を取り込んでしまうことがあり、免疫細胞ではADEが発生しやすいのだ。
実験の結果、ワクチンによって作られる抗体の一部に、ADEの恐れがあることがわかった。(上図のc)
まあ、hPIV2に限らず、どんなワクチンでも起きる時は起きるらしいんだけどね。
ADEが起きてしまったとしても、一部の抗体だけであればそれほど問題ではない。
だが、ワクチンによってウイルスの増殖抑制が強く出るか、それともADEのようなマイナスの効果が強く出るかはケースバイケースだ。
したがって、個別のワクチンの有効性については慎重な検証が必要であると著者らは述べている。
自分たちにとってマイナスの情報もしっかり実験しているのは、好感が持てるなと思う。
あと、抗体ができてるかだけじゃなくて細胞性免疫に効果があるかどうかってのも一応検証しているようなのであした紹介しておこうかな。
続く。