粒沢らぼ。

当ブログでは現役生命科学系の研究者が、気になった論文を紹介したり、考えていることを共有したりしています。可能な限り意識を”低く”がモットー。たまに経済ネタとかも。
書いてる人:粒沢ツナ彦。本業は某バイオベンチャーで研究者をやっています。本名ではないです。
博士号(生命科学系)。時々演劇の脚本家、コント作家、YouTube動画編集者。アンチ竹中エバンジェリスト、ニワカ竹中ヘイゾロジスト。
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タグ:SARS-CoV-2

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コロナといえば、感染すると一割以上の人が後遺症で働くことすら出来なくなる…とかいう海外発のクソみたいなデマを大真面目に信じている人がたくさんいることで有名()ですが。

コロナがこんだけ流行ったのに、周りに一人も働けなくなった人がいないですけどね。
少なく見積もって100人くらいは周りに知人がいると思いますけど。
1割が働けなくなるなら、さすがに数人はそういう人が自分の周りにも観測されないとおかしいでしょ。
なので、どう考えてもデマなんですが。

そんなことを思っていたら、日本の医療機関(医療法人徳洲会および医薬基盤・健康・栄養研究所)が、12万件以上の新型コロナ感染者のデータベースを使ってコロナ後遺症を調べた研究を最近(今月の18日に)発表したらしいんですけど。

PR TIMES「COVID-19後遺症について12万症例を超す日本初の大規模データ解析を実施」
このデータ(Kinugasa et al, 2023)がなかなか面白くてね。

長期的に現れる後遺症として、頭痛や倦怠感、疲労、味覚障害などについて調べてるんですが。
例えば頭痛だと、調査した 12万件の新型コロナ感染者のうち、3000人弱が感染直後の急性期に頭痛の症状を訴えてるんですね。
つまり この時点で全体のおよそ2.5%ぐらい。
で、感染から2週間以上経過しても頭痛の症状が残っていた人が、およそ300人。
だいたい一割くらいですね。

ほかに後遺症の代表格としては倦怠感 なんか もありますけど、倦怠感は12万人のうち およそ1000人ぐらいで観察されたので、だいたい1%なんですね。
で、そのうち1割ぐらいが感染から2週間以上経過しても倦怠感が残っていたそうです。

Kinugasa2023Fig2A
↑急性期(acute)と後遺症(post)の症状の数。Kinugasa et al (2023)より。CC-BY 4.0。

だいたい一割くらいが、症状長引くんですねえ。
およよ?

これってつまり、これまで散々言われていた後遺症が一割くらいに見られるとかいう話の答えがここにあるんじゃねえかと粒沢さんは思うわけです。
欧米なんかだと医療費が高いとかいろんな理由で、そもそも大した症状のない人は病院いかない。
そんな中でわざわざ病院を受診する人は、よほど辛い症状が出てる人ばかりなんでしょうね。
で、病院の医師はそういう人ばかりを調査対象にしちゃうから、「コロナの患者のうち1割が後遺症に!!」となってしまう。

一割は一割はでも、せいぜい数%の症状の強い人の中での一割だった、というオチなわけですよ。
粒沢さんは、自分の身の回りの体感とも合ってるし、すっごい腑に落ちました。
みなさんはどうですかね。

他にもこの論文からは
・味覚障害は患者の0.5%以下
・オミクロン以降はうつ症状や味覚障害の出る割合は激減している(弱毒化、もしくはワクチンのおかげか)
・高齢者はうつ症状が出る割合が高い
などと興味深いことがたくさん書いてあり、非常に面白いデータでした。
研究にかかわった皆様、データを集めて解析していただきありがとうございます!!

本当にTMEM106Bという細胞側の分子はSARS-CoV-2ウイルスと結合するのか?という昨日の話の続き。

Baggenらの研究では、クライオ電顕法などを用いて、分子の構造を解析した結果、TMEM106BがSARS-CoV-2のSタンパク質と結合する構造をとることが明らかになった。
Sタンパク質がACE2と結合する際に使われるRBD領域に、TMEM106Bもしっかりとハマるのだそうである。

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↑解析されたTMEM106BとSタンパク質の結合時の構造。右側は結合部分の拡大詳細図。CC-BY4.0。

さらに、ウイルスのSタンパク質は、TMEM106Bと結合するとウイルス膜と細胞の膜を融合させることも示された。

細胞膜にTMEM106Bを持つ培養細胞にSタンパク質を外から加えると、培養細胞どうしが融合して核をたくさん持つ大きな細胞ができる。
いっぽう、Sタンパク質との結合領域を変異させたTMEM106Bでは、細胞どうしの融合は起こらないことがわかった。

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↑細胞膜にACE2やTMEM106Bをもつ細胞が、Sタンパク質の添加で融合するかどうかを調べた実験。

このことから、細胞のTMEM106Bは(ACE2と同様に)ウイルスのもつSタンパク質と結合し、ウイルス膜と細胞膜の融合を引き起こす作用がある。
うまく融合すれば、ウイルスのもつ設計図(RNA)が細胞内に放出され、細胞にウイルスを複製させられるというわけだ。

SARS-CoV-2ウイルスが細胞内に侵入する経路は、ACE2だけでなく他にもあることが明らかになった。
さらに研究では、どうやらTMEM106Bの他にも同様の働きをする分子の存在が示唆されていた。
ウイルスの持つ「合い鍵」は、細胞の持つ「入口」一つだけでなく、いくつかにフィットしてしまうらしい。
なかなか良くできた仕組みだね。さすが流行るだけある。

感染を防ぐためには、(一部で研究されている)ウイルスの持つSタンパク質(合い鍵)の結合を阻害する戦略が有効なのは、おそらく変わらないかな。

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↑Baggen et al (2023) グラフィカルアブストラクト。

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新型コロナのウイルスが細胞に侵入する際に、宿主側のACE2という分子を利用するというのは有名だが、ACE2以外にもそのような働きをする分子が同定されたらしいっすね。

へー。他にもあるのね。


TMEM106B is a receptor mediating ACE2- independent SARS-CoV-2 cell entry
Baggen et al (2023) Cell
https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.06.005

新型コロナのウイルス、SARS-CoV-2は、感染対象の細胞の持つタンパク質分子ACE2を利用して、細胞内に侵入し感染しているとされてきた。

しかし、一部の細胞種ではACE2のタンパク質を細胞表面に出してないのに、SARS-CoV-2が感染できるらしいことがわかっていた。

つまり、ACE2以外にも、宿主側のタンパク質でSARS-CoV-2の感染を助けるものがあるらしい。


ベルギーのチームによる上記の研究では、さまざまな人間の細胞株の変異体をスクリーニングした結果、どうもTMEM106Bというべつのタンパク質が怪しいらしいと気づいたという。

TMEM106Bは普通は細胞内の一部の細胞小器官(リソソームなど)に多く存在するが、細胞の表面にも少量が存在するらしい。

TMEM106Bを人為的に過剰に作らせた細胞は、SARS-CoV-2に感染しやすくなるのだそうだ。


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↑人為的に細胞にTMEM106Bを作らせてウイルスを感染させる実験。対照実験(Luc)と比較して、TMEM106Bを作らせた細胞は感染する細胞数が増加する。(Baggen et al, 2023より。CC-BY-4.0。)

だが、それだけでは状況証拠にすぎない。

本当にSARS-CoV-2は、TMEM106Bに結合できるのであろうか?

結合するとして、どのように結合しているのか?

そこを示さないと、誰もが納得する結果にならない。

そこで研究では、クライオ電顕法などを用いて、SARS-CoV-2のSタンパク質分子とTMEM106Bの分子がどのように結合しているかを調べた。


続く


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地味に「へーそうなんだ」と思った件。


フェレットをつかった動物実験で、インフルエンザやSARS-CoV-2を目の粘膜にのみエアロゾルを吹きかけると、感染するかどうかを調べていた。

結果としては、目の粘膜からでも感染するばかりでなく、しっかり呼吸器症状を呈するようになったらしい。


Detection of Airborne Influenza A and SARS-CoV-2 Virus Shedding following Ocular Inoculation of Ferrets

Belser et al (2022) Journal of Virology

https://doi.org/10.1128/jvi.01403-22


インフルエンザやコロナウイルスが目の粘膜にも感染することは以前から知られていた。

しかし、目から感染した場合は、ウイルスは目だけにとどまって、のどにはとどかないのでは?とも思われたし、感染開始の場所により病態に何らかの違いがあるかも?という点は明らかでなかった。


結果としてはインフルエンザもコロナも、目を経由して感染した場合でも呼吸器症状を呈するようになり、最終的に呼気からウイルスが検出されるようになったそうだ。

目から感染しようがのどから感染しようが、ほとんど変わらないらしい。


ちなみに今回の実験ではフェレットの目の粘膜からウイルスが検出されたものの、目そのものには見た目でわかる症状はとくになかったそうだ。


どういう経路で喉や鼻に届くのかはよくわからんけどね。

目と鼻やのどは内側で繋がってるからそこからかもな。


呼吸器メインの感染症でも、呼吸器以外の細胞もしっかり感染するし、その後の経過も似たようなものなんだね。


だから、本当に感染症を防ぎたかったら、ゴーグルで目を保護しないといけないかもしれないんだって。

…うん、なるほど!それはやらないけど。

まあ新興感染症がでたときの医療関係者とかは注意したほうがいいかもね。


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コロナ感染で味覚障害とかはなんもなかったんだけど、

ぶっくり腫れ上がった口内炎が舌にできて痛い。

更にもう一箇所、右の奥歯の脇にも口内炎ができている。

そのせいでふだんほどには食事を楽しめていないのはたしかだ。


調べてみると、風邪のときにはそもそも口内炎ができやすいみたいね。

つばさ在宅クリニック西船橋「風邪で口内炎ができる?口内炎の症状と原因について」
 

風邪で免疫が落ちると傷口とかから雑菌の侵入を抑えられないから、ということらしい。

特に新型コロナだからということにはなっていないっぽいな。

もともと口内炎ができやすい体質だし。

風邪引くと普段より口の中が乾燥する感じがするから、そのせいなのかも。


治りかけの風邪のせいかやたら喉が乾くので、頻繁にお茶を飲んでいます。


それにしても、味覚障害だ〜脳障害だ〜いっしっていまだに後遺症煽りする人がいるけど、自分の周りの既感染者で後遺症だのごちゃごちゃ言ってる人一人も見たことないし、自分が感染してもやっぱり案の定何も起きないな。

後遺症があろうとなかろうと、社会生活を棒に振るほど自粛しないかぎり、感染を逃れられるわけじゃないのにね。

世界はどこも感染対策をやめているわけだし、いずれ後遺症が怖い派は天然記念物みたいな存在になっていくんでしょうかねえ。

”後遺症怖い派”と会話すると、宇宙人と喋っているみたいで本当に理解不能だし気持ち悪いんだけど、これも今しかできないレアなイベントを体験してると思って面白がるくらいがちょうどいいのかもね。


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