粒沢らぼ。

当ブログでは現役生命科学系の研究者が、気になった論文を紹介したり、考えていることを共有したりしています。可能な限り意識を”低く”がモットー。たまに経済ネタとかも。
書いてる人:粒沢ツナ彦。本業は某バイオベンチャーで研究者をやっています。本名ではないです。
博士号(生命科学系)。時々演劇の脚本家、コント作家、YouTube動画編集者。アンチ竹中エバンジェリスト、ニワカ竹中ヘイゾロジスト。
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タグ:治験

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某大手製薬企業でかなり偉いとこまでいった、現在は定年退職しているおじさん
の話を先日聞いた。

最近話題の某新薬開発、どうなんすかアレって聞いたら、まあバクチだよねって言ってた。


データ的には、某新薬の効果は一応ありそうだけど。

ただ、高額な薬価に対してメリットが大きいかどうかは微妙なラインなので、もしかすると売れないかもね…と言っていた。


開発に何千億円もかかっているから、本当に社運をかけたバクチだそうで。

会社の売れ筋商品(抗がん剤)で出た利益を、ほぼ全部突っ込んで開発しているような状態らしい。

それはどうなんだと思うこともあるそうだけど。

社長の発言力が強いので、その社長がやりたいと言っている以上はやるんだそうだ。(あそこの社長、社長歴長いからね…。)


大手の企業と言っても、案外そんなワンマンっぽい感じで決まるもんなんだなあ。
まあそんなもんか。 


会社の歴史を振り返ると、何度も経営的にヤバいことはあったらしい。

だが、これまではその度に会社に大きく貢献するような新薬ができて、なんとかなっていたのだそうである。

製薬という産業上しょうがないのだけれど、どうしても治験その他で開発費がかかるからね。

開発した新薬も、20年で特許切れちゃうしな。

バクチっぽくなるのは仕方ない。バクチを打っていくしかないのだ。

元気出していきましょうって感じだ。


新薬開発は薬としては結局ものにならず上市できないことも多いから、「一生涯に一度でも薬が出せればかなりラッキーな方だよね〜」、と言っていた。

高学歴新薬開発界隈、もはや「エンタの神様」的な、一発屋芸人みたいな世界だよな。

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4歳以下のワクチンを承認しているの、日本とアメリカ、カナダくらいなんだなあ。
欧米では4歳以下も接種開始してますとか言ってた変な人もいたけど、ぜんぜんそんなことなくて、少なくともヨーロッパでは現時点で4歳以下は接種対象ではないんですね。

というかそもそも、欧州ではコロナに対する関心がよほど低く、話題にすらならないのでしょうね。

それから米国でも4歳以下のワクチン接種は可能だとは言っても、接種が可能になってから3ヶ月も経った9月末時点で実際に接種した人は6%程度、今後子供にワクチンを接種するつもりのない人がおよそ半数もいるらしい。


The Guardian "Covid vaccination rates in US children under five lag despite effectiveness"

世界的に見れば、4歳以下はワクチンは誰も打ってはい…は言い過ぎだけど、打たない方が普通に多数派かもね。


まあ、いずれは欧州でも承認されるだろうし、打つ人の割合は徐々に増えていくのかもしれないけど。

そうなったらそんとき打ちゃいいんですよ。


ファイザーのワクチンの治験では、接種後3ヶ月以内の新型コロナ発症率が6%が1.8%に下がるから有効性73%とのことである。

まあ一見良さそうだけど、所詮は三ヶ月間の評価ですし、何回も打たないと意味ないって言い出すわけでしょ。どうせ。


思えば、ワクチンが出始めた頃から、2回打つだけで感染確率を下げると言ったかと思えば、3回目が必要と言ったり、発症は防げないが重症化や死亡を予防するといったり、そのときそのときで言うことが二転三転してますね。


要するに、医者が「自信を持って安全です!」と断言するということは、なんの意味もないし、一切信用しないほうがいいということだと判断せざるを得ませんよね。

また一、二年したら言うことが変わっている可能性だって大いにありえるわけで。


重症化防ぐっていうけど、小児における重症化予防の治験なんて、そもそも重症化率が低すぎて現実的にできるわけないよね。被験者集められないでしょ。

仕方無しで発症確率でごまかしてる感じですよね。

重症化しない程度の発症なんてはっきり言って防いでも防がなくてもどっちでもいいわけで。

副作用もなく安全と言うけれど、治験では原理的に数万人に一人以下のレアな重篤な副作用がある可能性や長期的な影響は評価されてないからね。


そりゃ副作用で死ぬ確率は低いけど、そもそも小児の死亡がレアだから、ビビるならどっちもビビらないとおかしいよね。


結局、打つ意味があるのかよくわからんのが最大の問題点だよね。

個人的には子供には最低10年くらい様子見ですわ。


まあ、他の家庭の子供がどうしようとそれは知りませんけどね。

iPhoneの新製品とかといっしょで、自分以外の人が人柱になって人体実験してくれるのは良いことなので歓迎します。


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CureApp HTという高血圧治療補助アプリ。

昨日の更新分で述べた通り、実際に高血圧の人の血圧を下げる効果が治験で示されている。

たしかな効果のエビデンスがあると認められ、保険適用となった。


その気になる費用だが、ひと月あたり3割負担で自己負担額が2,490円。半年で15,000円ほどだという。

保険で社会保障費から払われる分も含めれば約8,000円、6ヶ月の使用で50,000円ほどだという。

(なお、公式ウェブサイトによると、6ヶ月を超えた部分は保険適用にならないらしい)


エビデンスの保証された価値の高い治療方法だから当然だ、と言ってしまえばそれまでだが、かなり高額に思えてくるのも事実だ。

アプリで月8,000円はボロ儲けしすぎだろ、みたいな意見もたしかにわからなくもない。


実際にボロ儲けできるのかな?


日本全体で高血圧の治療を受けている人は800万人ぐらいいるらしい。

潜在的にはその4倍か5倍ぐらいの高血圧持ちの人がいると考えられている、ようである。


治験と開発費でたぶん10億円とか20億円はかかってるんだろと思うけど。もっとかな。


保険適用でも半年15,000円は高いような気はするが、100人に1人くらいはは医者に勧められれば使うようになるんじゃないでしょうか?


仮に高血圧患者800万人のうち1%が毎年使えば、
50,000×8,000,000x0.01=40億円くらい売り上げられることにはなる。


利益率がどれくらいか知らないけれど、3割〜5割くらいはあるんじゃないかな(適当)。

1%でも使われれば、投資分は数年で余裕で回収できるんだろうね。

そういう意味では、かなり分の良い賭けというか、結構いい感じに儲かりそうな気はする。

実際、儲かりそうということで、今年8月に追加で数十億の資金調達したみたいだしね。


医者としても、アプリ利用させることで医学管理料を徴収できるので、悪い話じゃないんだそうです。

(医療ビジネスは、既存の医療に配慮して分け前を用意してあげる形にしないと進まないの、あるあるですね)


これで日本全体の医療費がさらに増える方向に行くのかなぁ…ってのは気掛かりですけどね。
このアプリを使うことで高血圧の患者が減って社会保障費が削減…なんてことはなく、普通に医療にかかるタイミングが少し遅れるだけで、トータルの社会保障費はこれからも膨らみ続けそうですね。

まあ、高血圧患者の医療費って国全体で年間1兆8000億円くらいかかってるらしいんで、それが数十億増えたところで大した問題じゃないっすよ。
そういう問題じゃないか。ハハッ。

まあそこはアプリの開発者や保険適用を許可した厚生労働省や中医協が考えることではないので、仕方ないんすけどね。


政府の社会保障費にたかるだけだと思うと印象悪いけど、海外の高血圧患者にも同じスキームのアプリを売りつけるとかして、なんとか頑張って外貨を獲得してほしいなと思っています。


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CureAppという会社から、
高血圧の治療用のアプリ CureApp HT が利用可能になったらしい。


他の類似のサービスと大きく違うのは、このスマホアプリの利用自体が保険適用となっていることだという。

利用者にとってはエビデンスのある治療や指導を確実に受けることができる。

しかも保険適用なので比較的安価な自己負担で、だ。


アプリで指示される内容は、医師が臨床的に適切と判断したものであり、正規の手順を踏んだ治験で有効性が確認された指導方法だ。

このような承認を受けた治療指導アプリは日本では初めてなのだという。


医師が対面で指導するのと同じクオリティの指導をアプリでやってもらうことができるのだとしたら、たしかにすごくいいことには違いない。

しかも時々病院に通うのとは違って、アプリによる管理は毎日できるのが強みだ。


機能としては、生活習慣の改善の補助、ということになる。

つまり、高血圧の人は塩分を控えなければいけないわけだけど、食事の内容を入力することで適切に塩分量をコントロールできているかなどがわかるらしい。

その他、適切な睡眠や飲酒量のコントロールができているかもチェックできる。

また、家庭で測定した血圧の値を記録することもできるらしい。

毎日医者にチェックしてもらうわけにもいかないから、メリットがあるのは間違いないと言える。


治験では、アプリ使用群とアプリを使わない通常の治療のみの群(人数はそれぞれ190人以上)を比較していた。

通常治療群では12週時点で平均の収縮時血圧が、高血圧の目安となる140 mmHgを上回っており、24週時点でようやく140 mmHgを切った。

これに対して、アプリ使用群では12週時点で収縮時血圧がすでに140 mmHgを切っており、24週時点でも通常治療群よりも大幅な血圧低下を示した。


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↑CureApp HTの治験(HERB-DH1)における、血圧低下の図。黄色の線がアプリ使用群。Kario et al (2021) Eur Heart J。CC-BY-NC-4.0。


つまり、アプリの使用により、より大きな血圧低下効果が得られたわけだ。


ただし、アプリは補助や指導をするのみなので、実際に塩分を控えたり生活習慣を改善するのはあくまで自分自身の努力である。

ライザップですごいトレーナーがついても、痩せるための努力するのは結局自分なのと一緒だ。
それを便利と思うか、なんだ大したことねーなと思うかは、その人次第である。 

やる気があって本気で生活習慣を改善し健康になりたい!という人には、とても役に立つだろうね。

そうでない場合は、アプリはせっかく処方されても、「マンドクセ」と放置されて終わりかもしれない。


さて、気になるお値段だが、ひと月あたり3割負担で2,490円だそうで、これが高いか安いかで一部で議論を呼んでいる。


続く


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Natureの記事で知ったけど、日本ではまだ認可されてない
鼻から入れるタイプの新型コロナ経鼻ワクチンの認可が、インドや中国で降りているんだそうで。


Nature “China and India approve nasal COVID vaccines — are they a game changer?”


インドのBharat Biotechという会社が、インドの政府から経鼻ワクチンの認可を得ることに、今月6日に成功したそうだ。

他に、中国でもCanSino Biologicという会社が、軽微ワクチンを今月4日に中国政府から認可されているらしい。

経鼻ワクチンといえば、日本ではバイオコモなども開発していたけど(ブログでも何度か取り上げましたが)。

あまり研究資金をもらえなかったせいか(某アンジェスと違って!)、他の理由があるのか、あまり進んでいない印象。


しかし、世界中にこれだけ蔓延して、もうみんな感染対策をやめようかという話をしているのに、いまさらワクチンか…という気もするけど。


と思ったらBharat Biotech社の社長は、「世界的にワクチンの需要は低くなっているが、将来的な感染症流行に備える意味もあるので開発を継続した」と述べているらしい笑


pharmaceutical-technology.com “India grants approval for Bharat Biotech’s intranasal Covid-19 vaccine”


まあ、世界中でワクチン需要下がってるよね。そりゃね笑

そうはいっても、会社としてはとりあえず製品化したいよな。


なお、認可されたワクチンの性能がどれほどなのかは不明

Nature記事によれば、治験の第三フェーズに相当する研究がすでに行われているが、データはまだ公開されていないらしい。(インド等はそれで認可いけるんですねえ。)

経鼻ワクチンのメリットは、鼻にスプレーするだけで注射が不要なので誰でも簡単に接種できることが筆頭だが、呼吸器の粘膜に集中的に免疫が誘導されるので、感染や発症の確率を大きく下げることも期待されている。

期待されているが、現実世界で本当にそうなるかはまだよくわからない。

今後のデータ次第としか言いようがない。


仮に感染率が大幅に下がるとか大成功といえるような成果が出たら、日本はすごくイケてる技術をみすみす逃したことになるのかもね。

でも、いまからそうなる可能性は正直低いかも…と個人的には思ってしまいます。


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