粒沢らぼ。

当ブログでは現役生命科学系の研究者が、気になった論文を紹介したり、考えていることを共有したりしています。可能な限り意識を”低く”がモットー。たまに経済ネタとかも。
書いてる人:粒沢ツナ彦。本業は某バイオベンチャーで研究者をやっています。本名ではないです。
博士号(生命科学系)。時々演劇の脚本家、コント作家、YouTube動画編集者。アンチ竹中エバンジェリスト、ニワカ竹中ヘイゾロジスト。
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タグ:新型肺炎

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Goto 
トラベルキャンペーンは本当にすごくて、週末の温泉宿とかの予約がマジで一切取れない事態になっている。

先日、粒沢も某観光地に旅行でもいくか、と検索したけど、Gotoを利用できるプランで良さそうなものは本当に何一つ空きがないという状況だった。

来年の春だったら空きあるじゃん!と思ったら、そこまで先の予約はGoto対象外だから空いてただけらしい。

めちゃくちゃな大人気だ。

さぞや旅行・観光業界も助かっていることだと思う。

 

みんな今年の春夏の自粛でうんざりしていたというのもあるんだろうが、ここまでの大人気になるとは驚いたね。

 

思えば今年の6月7月くらいだと、まだ旅行に行っても大丈夫なのか不安があったよな。

ここぞとばかりに高級な宿に泊まるのもいいんじゃない?と思ったりもしたけど、結局なんだかんだと家族や周囲の反対もあって実行には移せなかった。

そのころだと高級な旅館のプランがキャンセルされて食材が余ってしまったとかそういう話がたくさん流れていたのにね。

 

まあ、当時は新型コロナの感染者が一度増加傾向に入ったらもう止められないのではないかという不安がかなりあったからな。

今でも当時と同じくらいの感染者が毎日見つかっているわけではあるが、感染者の増加ペースはだいたい一定で爆発的な増加は結局起きていない。

お盆休みやシルバーウィークでみんなそれなりに遊びに出ても全くと言っていいほど状況に変化がなかった。

 

冬が本格化するとどうなるかという不安はないではないにせよ、この分だと大丈夫そうだな、という感じがあるよね。

 

もちろん、だからと言ってコロナに全く無防備でいいという話ではないけどな。

ここまで感染者が線形に(指数関数でなく)増加するというのは、きっと先日紹介したThurnerらの論文の推察の通りなのだろう。


つまり、指数関数的な感染者の増加は一人の感染者が不特定多数の人と濃厚接触することで起きるが、我々の社会はさまざまな手段を講じてこれを防いでいる

可能な限り在宅勤務にするとか、通勤電車の中ではマスクをするとか、換気を頻繁に行うとか、食堂ではおしゃべりを減らし周りの人との間についたてを設けるとか、大規模なイベントを自粛するとか、そういう形でだ。

こうした取り組みの結果、もちろん同じ通勤電車に乗り合わせた人に感染させるなどの現象は全くゼロにはならないかもしれないが、そうしたことが起きる危険性はかなり低減されている。

その結果、仮に無症状で感染している人がいたとしても、その人から感染が起きる可能性が高いのは家族とか仕事の同僚などの限られた人数の人だけになるわけだ。

それならば、感染の拡大はゼロではないにしてもそれほどはやくもない。

 

同じコミュニティの中では広がる可能性はあっても、コミュニティーの枠を超えて爆発的に感染が広がっていくと言う状況は、日本人がこうした対策を真面目に行っている限りほとんど起こらないようだ。

 

北海道で感染者数がちょっと増えていると言うことだが、そうしたことがニュースで報道されて、大きな話題になっている限りは大丈夫だろう。

話題になれば、大抵の日本人は、完璧にとはいかなくても不必要な接触を避けたり換気をしたりするだろうから、感染拡大はいずれ落ち着くと思う。

 

これまでのところ、日本のコロナ対策と経済とのバランスは結構悪くない感じでやってこれてるんじゃないかな。

いい感じではないかと。

このままの流れで冬のインフルエンザシーズンも乗り切りたいもんだね。

新型コロナの重症化するとそうでもないの違いは何かと言う点について。

新型コロナ患者軽症と重症に分けてそれぞれの遺伝子を解析したところ、重症者では1型インターフェロンの産生に関わる遺伝子が欠損したり変異したりしている割合が通常よりもかなり高かったという。

 

Inborn errors of type I IFN immunity in patients with life-threatening COVID-19

Zhang et al (2020) Science

https://doi.org/10.1126/science.abd4570

 
Zhang-IFN-abstract-topimage

 

1型インターフェロンは、細胞がウィルスに感染したときに周りに放出され、他の細胞がウィルスに感染しないよう防御したり、既にウィルスに感染してしまっている場合は細胞死をうながしたりすることで、人体のウィルスに対する抵抗性を高めているタンパク質だ。

(参考url:http://www.md.tsukuba.ac.jp/basic-med/infectionbiology/virology/host_defense_against_virus.html) 
 

研究では軽症と重症の新型コロナ患者それぞれ600人程度を解析。

それぞれの患者は無関係で血縁関係などはないらしい。

重症の患者の遺伝子を網羅的に解析した結果、659人中23人(3.5%)が1インターフェロン産生に関わる何らかの変異を持っていた。

一方軽症の患者のグループでは同様の変異が見つかったのは534人中わずか1人であったという。

事実であれば、圧倒的な差だ。


Zhang-IFN-table1
↑1型インターフェロン関連の変異を持っていたという23人の内訳。

つまり、このような
1インターフェロン産生の変異がある遺伝子を持つ新型コロナで重症化しやすいらしい。

感染した細胞がうまく他の細胞に危険性を伝達できないのだから、本当なら確かに理にかなっている話だ。

 

インターフェロン関係の遺伝子は、以前から風邪やインフルエンザへの重症化しやすさと遺伝的変異の関係が調べられてきた。

今回変異が見つかった人は、「もともと風邪に抵抗力が低い人」だったのか?

必ずしもそうとばかりも言えないらしい。

 

今回1インターフェロン関係の遺伝子に変異があるとわかった人の中でも、これまでの人生では特に風邪が重症化することもなく、普通に暮らしていた人もいたようだ。

 

高校生物で習う劣性遺伝とか優勢遺伝(最近は潜性と顕性になったんだっけ?)を思い出して欲しい。

 

今回見つかった変異の中には、これまでは劣性遺伝で変異型の遺伝子が二本揃ってホモ型にならなければ風邪に弱くはならないと考えられてきたものもある。

変異型と通常型のヘテロ型になっていれば、とりあえず大丈夫だろうと考えられてきたものもあるというわけだ。

 

新型コロナに対しては、そうした遺伝子の変異も、二本のうち片方だけのヘテロ型な変異でも十分危険性が増している可能性が高い。

実際に、重症者グループの中には、そうしたヘテロ型の人も軽症者グループより多く含まれていた

研究者らは、通常の風邪やインフルエンザ程度の弱い感染症よりも新型コロナは強毒性であるためだと考えているようだ。

つまり、風邪やインフルエンザは弱いので防御力が多少下がっていても気にならなかったが、新型コロナは強いので防御力がちょっと下がっただけでも体へのダメージの違いが大きく出ているというわけだ。

 

さて、同じグループの別の研究によれば1型インターフェロンの産生の仕組みに変異を持つ患者の体内ではほとんど1インターフェロンが作られていないと言うことも確かめられたのだそうだ。

 

このようなインターフェロンの減少が重症化のトリガーになっているような患者に対しては外部から1インターフェロンを投与することで治療できる可能性があると研究者らは推測している。

 

上記のようなインターフェロンのメカニズムで現状説明できているのは患者全体の内の数%かせいぜい1割でしかないっぽいというのが、正直ちょっと頼りないところではあるが。

いずれにせよ病気の理解が進んで対策の選択肢が増えるのはいいとこだわな。

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アストラゼネカのワクチンの治験で、
ブラジルで対照群で治験に参加していた人が死亡したらしい。

対照群の偽薬投与で死ぬってどういうことなんだろうね。28歳の男性医師で、新型コロナの合併症ということだけど。

一般的に考えれば、対照群は「何もしなかった場合」ということになるのだけど。

本物のワクチン投与処置の群が、何もしなかった場合と比較して病気になる確率が低いとなれば、ワクチンに効果があるという話に普通はなるよね。

 

ただ、対照群と言ってもその設定の仕方は大変に重要である。

特にワクチンの接種の治験の場合は、ワクチンを接種されたのかプラセボなのかを、被験者自身や治験の担当の医師に分からなくする必要がある。

普通に考えたら、ワクチンの代わりに生理食塩水でも注射しておくのでもよさそうだが、これだとワクチン特有の副反応が出ないという問題がある。
 

多くのワクチンは、接種後に副反応があって、注射した部分がちょっと腫れるとか、発熱するとかすることがよくある。

対照群を生理食塩水にしてしまうと、こうした副反応は出ない。
 

そのため、副反応が出た被験者本人や、それをモニターしている医者は、「この被験者は本物のワクチンを注射された方だな」ということが推理できてしまうのだ。

そうなると、「俺は本物のワクチンを注射されたのだから効くはず」と思って本人が生活したり、「この被験者は本物だからきっと効果が出るはず」と思って観察者が記録したりすると、結果がバイアスされてしまう恐れがある。

こうしたことがあっては、治験の目的上大変よくない。

 

そこで、アストラゼネカのワクチンの治験ではどうしているのかを調べたところ、どうやら別のワクチンを対照群には注射しているらしい

髄膜炎菌ウィルスのワクチンというのを対照群には接種しているのだそうだ。

日本国内では髄膜炎菌が流行していないためあまり使われないが、欧米などでは普通に子供に接種されるようなタイプのワクチンであるらしい。

 

おそらくアストラゼネカの治験で死亡したという対照群の人も、このワクチンを接種されたっぽい感じだ。

じゃあ、こちらのワクチンに毒性が…?と思いたくなるけど、すでに認可されて広く使用されているワクチンだし、流石にその可能性はなさそうだよなあ。

 

結局、本当にたまたま亡くなるような人だったのだろうかなあ。

気になるは気になるけど、まあ被験者数が多ければ、そういうことが稀にあってもおかしくはないよね。

特にブラジルは感染者数も多いし、若い人でも運悪く亡くなることくらいそりゃあるよな。

陰謀論に立てば、「本当はワクチン接種群だったけど、死んだから対照群だったことにした」みたいな邪推もしたくなるけど、そんなことして後々薬害でも出したら困るのは製薬会社だしねえ。

まあ、まず普通に考えたらやらないよなぁ。

アゼルバイジャンとアルメニアの戦争でアゼルバイジャン軍が大量のドローンを投入して戦果をあげているらしいと言う話がありましたが。

高性能なドローンに爆撃されてるんじゃお手上げじゃないかと思ったんですが、アルメニア軍はアルメニア軍で対抗策を編み出したようです。

それが、戦車そっくりに見立てた風船を本物の戦車に紛れさせて配備しておき、ドローンに攻撃させるという戦術のようです。

ドローンの性能では風船なのか本物の戦車なのかを見分ける事は難しいらしくかなりの効果があったように伝えられています。


戦争なんで面白がってる場合じゃないんですけど、正直面白いなと思いました。

敵の攻撃が激しいときにはあえてデコイを撒いておいて、相手が消耗するのを待つということですね。

 

新型コロナの治療にもデコイ戦法の導入が検討されているようで。

新型コロナを防ぎ、しかも過剰な免疫反応(いわゆるサイトカインストーム)で重症化してしまうことも防げる“ナノデコイ”が開発されたという論文を読みました。

 

Decoy nanoparticles protect against COVID-19 by concurrently adsorbing viruses and inflammatory cytokines

Rao et al (2020) PNAS

http://www.pnas.org/lookup/doi/10.1073/pnas.2014352117

 

新型コロナウィルスは人間の細胞の表面にあるACE2というレセプターに結合することで感染します。

また、サイトカインストームはインターロイキン6(IL6)という炎症誘発性のサイトカインが細胞に結合して起こるとされています。

米国と中国の共同研究で開発されたと言うナノデコイは、脂質膜でできた直径数10ナノメートル程度の球体です。

表面に、ACE2とIL6レセプター(IL6R)を持っています。

体内に注入することで、ナノデコイはウィルスを引き寄せて消耗させ、ウィルスの感染と増殖を阻害します。

また、IL6を集めて無効化することで、過剰に炎症が発生して症状が重篤化するのを防ぐことができる、ということのようです。

 
スライド1
 

↑上段:ナノデコイの作り方の模式図。下段左:ACE2のみがあるナノ球体(ACE2-Ves)と新しいナノデコイはウィルス感染を抑制する。下段右:IL6Rのみがあるナノ粒子(THP1-Ves)と新しいナノデコイはIL6の量を減衰させる。

 

まあ、ちょっと気になるのはACE2とIL6Rの機能的な意味が完全に独立してるところだな。

ACE2とIL6Rの両方を持つナノデコイをわざわざ作らなくても、それぞれ別々に作って混ぜれば良くね?という気はしたけど…。

まあいいか。

 

安価で大量に作れるどうでもいいデコイを作る戦略は、国どうしの戦闘だけでなくウィルスとの戦いにおいても有望なのかもしれないっすね。

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トランプ大統領が新型コロナにかかってしまったらしい
が。

最近の報道によると、トランプ大統領はデキサメタゾンレムデジビルを投与されたらしい

 

デキサメタゾンは酸素吸入が必要なくらいには重症化した患者に処方されるものらしく、トランプ大統領の症状がかなり重かった時期があるのではないかと推測する人もいる。

 

一方で、「ヒドロキシクロロキンは使わないんですか」と思った人も多いんじゃないだろうか?

以前もこのブログで取り上げたとおり(ヒドロキシクロロキンが逆転勝利宣言をするのはまだ早い その①)、ヒドロキシクロロキンはトランプ大統領が一押しの薬だ。

まだ薬の効果がはっきりしない5月の段階でトランプ大統領がヒドロキシクロロキンは新型コロナに効くと発言したことから大きな論争を呼んだ

粒沢は、単にリップサービスしたんだろう位にしか思っていなかったが、より過激なことを言う人の中には製薬会社の陰謀説を唱える人もいる。

曰く、製薬会社は自社の儲けを優先するために安価ですぐに効果が出るヒドロキシクロロキンを捏造研究で否定し、他の薬を売り込もうとしている、のだそうだ。

 

粒沢としては、そういう製薬会社の陰謀はあるかもしれないけど、確実にそうだというほどの確信や期待も持てなかったのでこの件については保留していた。

 

最近の研究では、ヒドロキシクロロキンの有効性に否定的な結果ばかりが発表されているようだが。

まあそれも大御所の教授を押さえている製薬会社の陰謀の可能性はゼロじゃないかもしれない。

 

そして今回、まさにトランプ大統領本人が新型コロナにかかってしまったことによってある意味ではヒドロキシクロロキンの有効性を評価できるチャンスがあったといえる。

どうやら報道によるとトランプ大統領が一時期酸素吸入が必要なほど危険な状態に陥ったことも事実らしい。

それにもかかわらずトランプさんはヒドロキシクロロキンを服用しなかった

 

これはもう、さすがに決着で良いんでないかなあ。

5月の時点ではともかく、今の時点ではトランプを支持し支える立場の医師たちですらも、ヒドロキシクロロキンに大した価値を見出していないのだ。

もちろん、医師たちは製薬会社とつながっているから…というような「解釈」は完全に不可能と言うわけではないだろうが。

 

客観的に見て、ヒドロキシクロロキンはやっぱりコロナ治療薬としては大したことないのだ、と信じる方がよほど自然じゃないかな。

製薬会社の陰謀派の人には申し訳ないが、粒沢は今回のことでだいぶそっちに傾いたね。

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