粒沢らぼ。

当ブログでは現役生命科学系の研究者が、気になった論文を紹介したり、考えていることを共有したりしています。可能な限り意識を”低く”がモットー。たまに経済ネタとかも。
書いてる人:粒沢ツナ彦。本業は某バイオベンチャーで研究者をやっています。本名ではないです。
博士号(生命科学系)。時々演劇の脚本家、コント作家、YouTube動画編集者。アンチ竹中エバンジェリスト、ニワカ竹中ヘイゾロジスト。
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タグ:新型コロナ

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とうとう日本医師会さんが「高齢者や基礎疾患のある人以外に積極的に(新型コロナワクチンの)接種を呼びかける必要はないという認識」を示してくださいましたね。

NHKニュース「“すべての人への積極的接種呼びかけは不要”釜萢常任理事」

NHKのニュースによれば、日本医師会の釜萢氏は「65歳以上の人や基礎疾患がある人以外が重症になる割合はそれほど高くはない。全体の感染を抑えるために無理をして接種してもらうというよりも、個人で選択してもらう時期に入った」と述べたそうで。
もっと早く決められなかったのかとも思いますが、良い方向だと思います。

僕自身は当初は非常に効果が高いと聞いていたので最初の2回は接種したけど、それ以降はいろいろデータを見て大した効果ではないと思うようになったので、3回目以降は打っていません。
打ちたい人が打つのは良いと思いますが、全員に推奨するほどの効果ではないと思っていました。
ましてや一生のうち何回も繰り返し公費で打つのは、税金の使い道として到底正当化できないと思うのですよね。
打ちたくない人の分までワクチンを輸入することで、国の財政を悪化させて外国に富を流出させた上に、ほとんどメリットはないわけですからね。

とりあえずまともな方向に推移しそうでよかったです。

それにしても日本医師会の釜萢氏は、かつては「年一回の接種は有力な選択肢」「新規感染者に多い若年層に、オミクロン株対応ワクチンの接種をお願いすることが非常に重要だ」などと発言していたんですが、この方針転換には驚きましたね。

産経ニュース
日医・釜萢氏、ワクチン接種年1回案は『有力な一つの選択肢』」
読売新聞「コロナ感染拡大『第8波に入った』…日本医師会常任理事『若年層のワクチン接種重要』


医師会が態度を変えたのは、ひとつには先日の徳洲会の大規模なデータで現役世代の重症化は少ないことがデータで示された事があるかもしれません。

しかも「ワクチン接種後に体調を崩した人への対応が非常に重要だ。」と述べるなど、ワクチンが健康被害をもたらすこともあるということもはっきり認めた発言をしたことにも驚きました。
もしかしたら関係あるかもしれない、と思うのは、先日はScience誌に「ワクチン接種の後遺症が現実にあると認められるようになってきた」という記事が載ってたんですよ。

Science “Rare link between coronavirus vaccines and Long Covid–like illness starts to gain acceptance


データの蓄積や、国外も含めた状況の変化を受けて、医師会もさすがに見解を変えざるを得ないと判断したのかもしれません。
世の中の趨勢が変わりつつありますね。


ユキノシタ属の植物から抽出されるタンニンが、新型コロナやインフルエンザなど様々なウイルスを不活性化する効果があるらしいとの話である。


Rapid Virucidal Activity of Japanese Saxifraga Species-Derived Condensed Tannins against SARS-CoV-2, Influenza A Virus, and Human Norovirus Surrogate Viruses
Murata et al (2023) Applied Environmental Microbiology 
https://doi.org/10.1128/aem.00237-23 


東北薬科大及び帯広畜産大の研究成果らしい。

同一のグループの以前の研究により、ユキノシタ属(Saxifraga)の植物には抗ウイルス作用があることがわかっていた。

どの成分が抗ウイルス作用をもたらすのかを分析したところ、いわゆるタンニンの一種が抗ウイルス作用の正体であることを突き止めたという。

電子顕微鏡を用いた測定の結果、タンニンを使用することで様々なウイルスを吸着して凝集させ、不活性化する効果があるそうである。

例えばハンドクリームのような形で身につけることによって、ウイルスに対する防御性能を発揮してくれることが期待できるという話である。


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↑予測されているタンニンの構造。Murata et alより。CC-BY 4.0。

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↑ウイルスを破壊する作用の実験。ウシコロナウイルスを凝集して破壊しているらしい。Murata et al (2023)。

まあ、抗菌抗ウイルス作用だけだと、そこまで需要がないかもしれない。

ただ、服用する生薬としての期待もされており、ウイルス感染時の治りを早くする効果があるかどうかは、目下研究中なのだそうである。

抗ウイルスのボールペンとか昔流行ったけど、最近はどうなんだろう。
新型コロナでウイルスに対する警戒度も上がったから、ハンドクリームにしたら買う人は買うかもね。
植物由来の成分なら実際、安全な感じもするしね。
爆発的に売れるかっていうとそうでもないかも?
飲んで感染症に対する効果あったらすごいけどね。 

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コロナといえば、感染すると一割以上の人が後遺症で働くことすら出来なくなる…とかいう海外発のクソみたいなデマを大真面目に信じている人がたくさんいることで有名()ですが。

コロナがこんだけ流行ったのに、周りに一人も働けなくなった人がいないですけどね。
少なく見積もって100人くらいは周りに知人がいると思いますけど。
1割が働けなくなるなら、さすがに数人はそういう人が自分の周りにも観測されないとおかしいでしょ。
なので、どう考えてもデマなんですが。

そんなことを思っていたら、日本の医療機関(医療法人徳洲会および医薬基盤・健康・栄養研究所)が、12万件以上の新型コロナ感染者のデータベースを使ってコロナ後遺症を調べた研究を最近(今月の18日に)発表したらしいんですけど。

PR TIMES「COVID-19後遺症について12万症例を超す日本初の大規模データ解析を実施」
このデータ(Kinugasa et al, 2023)がなかなか面白くてね。

長期的に現れる後遺症として、頭痛や倦怠感、疲労、味覚障害などについて調べてるんですが。
例えば頭痛だと、調査した 12万件の新型コロナ感染者のうち、3000人弱が感染直後の急性期に頭痛の症状を訴えてるんですね。
つまり この時点で全体のおよそ2.5%ぐらい。
で、感染から2週間以上経過しても頭痛の症状が残っていた人が、およそ300人。
だいたい一割くらいですね。

ほかに後遺症の代表格としては倦怠感 なんか もありますけど、倦怠感は12万人のうち およそ1000人ぐらいで観察されたので、だいたい1%なんですね。
で、そのうち1割ぐらいが感染から2週間以上経過しても倦怠感が残っていたそうです。

Kinugasa2023Fig2A
↑急性期(acute)と後遺症(post)の症状の数。Kinugasa et al (2023)より。CC-BY 4.0。

だいたい一割くらいが、症状長引くんですねえ。
およよ?

これってつまり、これまで散々言われていた後遺症が一割くらいに見られるとかいう話の答えがここにあるんじゃねえかと粒沢さんは思うわけです。
欧米なんかだと医療費が高いとかいろんな理由で、そもそも大した症状のない人は病院いかない。
そんな中でわざわざ病院を受診する人は、よほど辛い症状が出てる人ばかりなんでしょうね。
で、病院の医師はそういう人ばかりを調査対象にしちゃうから、「コロナの患者のうち1割が後遺症に!!」となってしまう。

一割は一割はでも、せいぜい数%の症状の強い人の中での一割だった、というオチなわけですよ。
粒沢さんは、自分の身の回りの体感とも合ってるし、すっごい腑に落ちました。
みなさんはどうですかね。

他にもこの論文からは
・味覚障害は患者の0.5%以下
・オミクロン以降はうつ症状や味覚障害の出る割合は激減している(弱毒化、もしくはワクチンのおかげか)
・高齢者はうつ症状が出る割合が高い
などと興味深いことがたくさん書いてあり、非常に面白いデータでした。
研究にかかわった皆様、データを集めて解析していただきありがとうございます!!

本当にTMEM106Bという細胞側の分子はSARS-CoV-2ウイルスと結合するのか?という昨日の話の続き。

Baggenらの研究では、クライオ電顕法などを用いて、分子の構造を解析した結果、TMEM106BがSARS-CoV-2のSタンパク質と結合する構造をとることが明らかになった。
Sタンパク質がACE2と結合する際に使われるRBD領域に、TMEM106Bもしっかりとハマるのだそうである。

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↑解析されたTMEM106BとSタンパク質の結合時の構造。右側は結合部分の拡大詳細図。CC-BY4.0。

さらに、ウイルスのSタンパク質は、TMEM106Bと結合するとウイルス膜と細胞の膜を融合させることも示された。

細胞膜にTMEM106Bを持つ培養細胞にSタンパク質を外から加えると、培養細胞どうしが融合して核をたくさん持つ大きな細胞ができる。
いっぽう、Sタンパク質との結合領域を変異させたTMEM106Bでは、細胞どうしの融合は起こらないことがわかった。

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↑細胞膜にACE2やTMEM106Bをもつ細胞が、Sタンパク質の添加で融合するかどうかを調べた実験。

このことから、細胞のTMEM106Bは(ACE2と同様に)ウイルスのもつSタンパク質と結合し、ウイルス膜と細胞膜の融合を引き起こす作用がある。
うまく融合すれば、ウイルスのもつ設計図(RNA)が細胞内に放出され、細胞にウイルスを複製させられるというわけだ。

SARS-CoV-2ウイルスが細胞内に侵入する経路は、ACE2だけでなく他にもあることが明らかになった。
さらに研究では、どうやらTMEM106Bの他にも同様の働きをする分子の存在が示唆されていた。
ウイルスの持つ「合い鍵」は、細胞の持つ「入口」一つだけでなく、いくつかにフィットしてしまうらしい。
なかなか良くできた仕組みだね。さすが流行るだけある。

感染を防ぐためには、(一部で研究されている)ウイルスの持つSタンパク質(合い鍵)の結合を阻害する戦略が有効なのは、おそらく変わらないかな。

Baggen2023FigGA
↑Baggen et al (2023) グラフィカルアブストラクト。

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新型コロナのウイルスが細胞に侵入する際に、宿主側のACE2という分子を利用するというのは有名だが、ACE2以外にもそのような働きをする分子が同定されたらしいっすね。

へー。他にもあるのね。


TMEM106B is a receptor mediating ACE2- independent SARS-CoV-2 cell entry
Baggen et al (2023) Cell
https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.06.005

新型コロナのウイルス、SARS-CoV-2は、感染対象の細胞の持つタンパク質分子ACE2を利用して、細胞内に侵入し感染しているとされてきた。

しかし、一部の細胞種ではACE2のタンパク質を細胞表面に出してないのに、SARS-CoV-2が感染できるらしいことがわかっていた。

つまり、ACE2以外にも、宿主側のタンパク質でSARS-CoV-2の感染を助けるものがあるらしい。


ベルギーのチームによる上記の研究では、さまざまな人間の細胞株の変異体をスクリーニングした結果、どうもTMEM106Bというべつのタンパク質が怪しいらしいと気づいたという。

TMEM106Bは普通は細胞内の一部の細胞小器官(リソソームなど)に多く存在するが、細胞の表面にも少量が存在するらしい。

TMEM106Bを人為的に過剰に作らせた細胞は、SARS-CoV-2に感染しやすくなるのだそうだ。


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↑人為的に細胞にTMEM106Bを作らせてウイルスを感染させる実験。対照実験(Luc)と比較して、TMEM106Bを作らせた細胞は感染する細胞数が増加する。(Baggen et al, 2023より。CC-BY-4.0。)

だが、それだけでは状況証拠にすぎない。

本当にSARS-CoV-2は、TMEM106Bに結合できるのであろうか?

結合するとして、どのように結合しているのか?

そこを示さないと、誰もが納得する結果にならない。

そこで研究では、クライオ電顕法などを用いて、SARS-CoV-2のSタンパク質分子とTMEM106Bの分子がどのように結合しているかを調べた。


続く


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