粒沢らぼ。

当ブログでは現役生命科学系の研究者が、気になった論文を紹介したり、考えていることを共有したりしています。可能な限り意識を”低く”がモットー。たまに経済ネタとかも。
書いてる人:粒沢ツナ彦。本業は某バイオベンチャーで研究者をやっています。本名ではないです。
博士号(生命科学系)。時々演劇の脚本家、コント作家、YouTube動画編集者。アンチ竹中エバンジェリスト、ニワカ竹中ヘイゾロジスト。
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タグ:感染症

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地味に「へーそうなんだ」と思った件。


フェレットをつかった動物実験で、インフルエンザやSARS-CoV-2を目の粘膜にのみエアロゾルを吹きかけると、感染するかどうかを調べていた。

結果としては、目の粘膜からでも感染するばかりでなく、しっかり呼吸器症状を呈するようになったらしい。


Detection of Airborne Influenza A and SARS-CoV-2 Virus Shedding following Ocular Inoculation of Ferrets

Belser et al (2022) Journal of Virology

https://doi.org/10.1128/jvi.01403-22


インフルエンザやコロナウイルスが目の粘膜にも感染することは以前から知られていた。

しかし、目から感染した場合は、ウイルスは目だけにとどまって、のどにはとどかないのでは?とも思われたし、感染開始の場所により病態に何らかの違いがあるかも?という点は明らかでなかった。


結果としてはインフルエンザもコロナも、目を経由して感染した場合でも呼吸器症状を呈するようになり、最終的に呼気からウイルスが検出されるようになったそうだ。

目から感染しようがのどから感染しようが、ほとんど変わらないらしい。


ちなみに今回の実験ではフェレットの目の粘膜からウイルスが検出されたものの、目そのものには見た目でわかる症状はとくになかったそうだ。


どういう経路で喉や鼻に届くのかはよくわからんけどね。

目と鼻やのどは内側で繋がってるからそこからかもな。


呼吸器メインの感染症でも、呼吸器以外の細胞もしっかり感染するし、その後の経過も似たようなものなんだね。


だから、本当に感染症を防ぎたかったら、ゴーグルで目を保護しないといけないかもしれないんだって。

…うん、なるほど!それはやらないけど。

まあ新興感染症がでたときの医療関係者とかは注意したほうがいいかもね。


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北海道や岡山の養鶏場で鳥インフルエンザが発生したらしい。


考えてもしょうがないけど、鳥インフルエンザっていったいどっから来るんだろうね。

野鳥とかがウイルスを保有したまま国を渡ることで、国外から持ち込んでんのかな。

普通に国内の野鳥がウイルスを保有しているのだとすると、もっとずっと発生頻度高いはずな気もするが…。


聞いた話だと、最近は鶏の買い方も鳥インフルエンザにならないように、野鳥と接触しないようにたとえば外で飼うにしてもネットを設けるとか、工夫するように家畜保健衛生所とかから指導されたりするらしい。

そのおかげか、鳥インフルエンザになる養鶏場はそこまで多くないけれど、やっぱり出るときは出るという。


窓無しのいわゆるウィンドレス鶏舎を採用しても、やっぱり出るときは鳥インフルエンザは出るらしい。

窓無しといっても、外気を換気のために取り込んだりはしているだろうから、完全に隔離されてるわけじゃないけど。

少なくとも、外の野生の鶏や動物と直接の接触が発生することはない。

それでも、鳥インフルエンザは出るときは出るというから、結構不思議よね。


野鳥が鶏舎の周辺に糞をして、それが乾燥して風に乗って吹き込んだり、人や猫などの小動物の体に付着して運び込まれたりする、というのがいまのことろ信じられている仮説のようである。


YUIME Japan 「鳥インフルエンザの基本的な対策と注意点を教えてください」


本当なのかどうか誰か検証してほしいけれど…。

日本全体で(家畜ニワトリに最初に感染する)年に数回起きるかどうかのイベントが、真の意味で科学的に検証・解明される可能性はほぼ皆無だろうなあ。


農家も、基本的には気をつけてはいるだろうけど、感染症を完全に防ぐのは難しいね。

粒沢も、コロナ禍直後でほとんど外出してない時ですら、コロナにはかかりませんでしたけど風邪は引きましたからね。


まあ、稀にどうしても発生してしまう鳥インフルエンザ程度なら、発生次第移動禁止と殺処分が行われ、農家にも国から補償が出るらしいので、殺処分は大変だとはいえ、いまのところほとんどの農家にとってはそれ以上の脅威にはなっていないんだそうである。

人間の感染症と違って、感染した動物を片っ端から処分すればいいわけだから、事実上の「ゼロ鳥インフルエンザ」を達成することはそれほど難しくないということですねえ。


friends_boys


世界で患者が出現しており、ニュースでもよく取り上げられるサル痘
Science誌に載っていたニュース記事によると、現状報道では伏せられているものの、患者のほぼ全員にとある共通点があるらしい。


Science “Why the monkeypox outbreak is mostly affecting men who have sex with men”


イギリスでサル痘患者の調査をした結果わかったことは、患者のほぼ全員が男性で、しかも男性と性交渉する同性愛者やバイセクシャルなんだそうだ。

イギリスのサーベイの結果では感染者のうち99%(311/314)が男性であった。

感染男性152名中151名が男性と性交渉をする習慣があると答えたということであり、残りの一名は性事情については回答拒否だという。

回答を得られた感染者のほぼ全てが、発症の5-21日前に同性間の性交渉をしているのだという。

多少傾向があるだけならともかく、ほぼ百パーセントに近い偏りがあるそうなので、これはさすがに男性同性間での性交渉に何かしらの原因があるっぽいのだそうだ。

回答者の半数は最近の性交渉パートナーが何人もいる(3ヶ月で10人以上らしい)タイプの同性愛者で、感染直前にグループで性交渉する機会があった人も多いそうである。
(けしからんという人もいるかもしれないが、異性愛者でもそういう人は特段珍しくはないよね)

感染者の中にはバイセクシャルも1割程度いるらしく、男女間の性交渉でも感染が広がるということもあってもよさそうだが、不思議とそういうことにはなっていないらしい。


詳細は全く不明だが、これまで人間の間で広がることは基本的になかったサル痘ウイルスが、男性同性間の性交渉に特化したタイプの変異を獲得したのは間違いないようである。


そういう意味では、性的嗜好がそちら側でない人はとりあえず安心してもいいのかもしれないが。


どう考えても同性愛者に対する差別や攻撃を誘発しかねないメチャメチャセンシティブな事案のため、今のところは多くの報道では伏せられているようである。

しかし、伏せていることによりかえって気をつけるべき人が気をつけず感染を広げてしまうのでは?とも指摘されており、悩ましさがあるそうである。

でも、いずれ一般に認知されるようになるんでしょうね。


仮に周りの人がサル痘にかかったとして、あまり詮索しないほうが良さそうである。


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イギリスやアメリカなどで、サル痘という皮膚に発疹ができる病気が報告されているらしい。

新しい感染症ということで、日本に入ってくるかどうかや致死率はどの程度になるのかが注目されている。

NHK「 『サル痘』 欧米などで報告相次ぐ 症状・注意すべき点は…」


ところで、サル痘のニュース以降、「感染拡大を防ぐために、まだまだマスクは手放せないのでは」と言う人も時々いるけど、どうなんでしょうね。


国立感染症研究所によると、サル痘ウイルスの感染力はそこまで強くなく、基本的には患者の体液などに濃厚接触した人に感染するものであるらしい。

咳などの呼吸器症状はないそうである。

NIID「サル痘とは」
 

そう聞くと、マスクはしていようがしていまいが関係ない気もする。

ただ、飛沫感染をするとも考えられているので、感染者がマスクをすることは効果があるのかもしれない。


でも、どうなんでしょうね。

飛沫感染つっても、「感染して口内に発疹ができてしまっている人」の唾液飛沫で感染するのはわかるけれど、「感染したけど症状はまだほとんど出ていない人」の飛沫で感染するのかな。

新型コロナの場合は、通常の風邪との区別をするのが初期段階では非常に難しいのと、無症状の潜伏期間中に感染を広げる可能性があるとのことで、健常者含めてみんなでマスクしようという話になったわけだけど。
それに匹敵するほどの感染力なのかはまだわからないね。 


わからない(けどおそらくそこまでではない)ものに過剰な警戒をしても仕方ないので、サル痘ウイルスの対策の場合は無症状やちょっとした体調不良くらいでマスクをする必要性は、いまのところなさそうである。

今後の調査で、潜伏期間中の感染力がたぶん調べられるだろうけど、そこで「潜伏期間中にちょっと対面で会話しただけで感染するおそれがある」というデータが出るかどうかで、もしかしたら判断がかわるかもしれない、ってところかな。




サイエンスに載っていた記事によると、コロナ前と比較して、インフルエンザに罹患する人はなぜか知らんけどめちゃくちゃ減っている

しかし、それ以外の感染症は、減ってはいるものの確実に罹患者が出ているらしい。


Uncertain effects of the pandemic on respiratory viruses
Gomez et al (2021) Science

https://doi.org/10.1126/science.abh3986


Global Influenza Hospital Surveillance Network(世界インフルエンザ調査病院ネットワーク?)という、20ヶ国以上の100を超える医療機関での調査で判明したということ。

たしかにインフルエンザは20182019のシーズンと比較するとほぼゼロと言っていい流行度であったけど、ライノウィルスとかRSウィルス、新型でないコロナウィルスの流行は、減っているにせよ観測されているらしい。 
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↑世界のここ3年の感染症の流行の推移だそうだ。


世界各国では感染症対策としてマスクやソーシャルディスタンスなどの措置が取られており、それで感染症の数が減るのはわかるが、インフルエンザとそれ以外の感染症でここまで傾向の異なるデータになるのは非常に不思議だよな。

なんか理由があるんだろうけど。

 

インフルエンザが減ったというのは、インフルエンザだけが何か特有の事情があるのかしら。

「これだけインフルエンザが減るほどの感染対策をしても新型コロナの感染者が減らない!だから新型コロナは恐ろしいんだ!」

とかも言われていたけど、この図を見る限り「感染力から言えば他の感染症も大差ない」んだよね。致死率にそりゃ差があるとはいえ。

不思議だねえ。

 

そんで、一応まあ記事の主題としては、

「感染者が減っているということはインフルエンザやその他の感染症に免疫を持たない人が増えているということ。

・今後数年間は、仮にワクチンで生活が戻ったとして、インフルエンザを含めた諸感染症の流行のリズムが安定しない可能性がある。また、それが何年くらいしたら正常化するのかも前例がないのでわからない。

・場合によってはこれらの新型コロナ以外のn感染症が爆発的流行するかも

今後数年間は、感染症の流行の調査が非常に重要。

って感じですね。

インフルエンザやRSウィルスの感染者がある年に激減すると、数年後に大流行する恐れがある、という論文を以前紹介しましたが、まあそれと同じ流れの話です。

こういう機会にちゃんと調べられることは調べなあかんというのは全く同意ですね。

 

しっかしまあ、全世界を上げて感染症対策したからあらゆる新型コロナ以外の感染症が影響受けるとか、なんだか面白い時代に生きているものだね。

インフルエンザの謎の弱さの理由、誰かスッキリと解明してほしいっすわ。

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