大規模な山火事の起きたアメリカのカリフォルニア周辺と、その隣の比較的山火事の少ないオレゴン州、ワシントン州の郡(地域)ごとに、新型コロナの患者数と死者数を比較したのだとか。
【論文紹介】山火事とPM2.5と新型コロナ
大規模な山火事の起きたアメリカのカリフォルニア周辺と、その隣の比較的山火事の少ないオレゴン州、ワシントン州の郡(地域)ごとに、新型コロナの患者数と死者数を比較したのだとか。
前回まで、マスクをすると感染予防効果が十分期待できることをCheng (2021)らの科学的な計算からみてきました。
気になるのは何%のウイルスをマスクがカットするのか、どんなマスクをすればいいのかという点じゃないだろうか?
粒沢も、この論文では、何%のウイルスがマスクを通過する想定なのか、数字が書いてないから探した。
だが、そういう数字は論文中のどこを見ても見つからない。
あえて書いてないのだ。
これには理由がある。
マスクか飛沫の水滴粒子をカットできるかどうかは、粒子のサイズに大きく依存するからだ。
そのことを論文の筆者らが示したのが、以下の図である。
↑くしゃみ、咳、会話、呼吸にともなって放出される飛沫の大きさと量の分布。白ヌキの○で示されているのが実測値で、他の線は数理モデルからの計算式。横軸が粒子の大きさ(対数軸で0.1マイクロメートルから1ミリメートルまで)、縦軸が飛沫の量(その大きさの粒子の総体積、これも対数軸)を表す。なお、マスクのフィルター部分以外からの“漏れ”も数理モデルでは考慮されている。
大まかにいって、不織布マスクは、数マイクロメートル以下の粒子は図を見る限りだいたい1/2か1/3くらいに減らすことができており、一方で数十マイクロメートル以上の大きさの粒子はほぼ100%の粒子を捕捉することができている。
粒子サイズによって、マスクの効果が全然違うのだ。
ここで、大きい飛沫の特徴と小さい飛沫の特徴を見ていこう。
大きい飛沫(定義によるがだいたい直径5マイクロメートルから上)は
・大きい分ウイルスの数が多いため、一発もらうだけで感染確率が激増するかも
・空中を漂わないで、すぐ地面に落ちる。至近距離での会話なら飛んで相手の口に入ることもある
・性能の低いマスクでも簡単に防げる
小さい飛沫(だいたい直径5マイクロメートルから下)は
・高性能なマスクで減らせるが、完全にゼロは高性能なマスクでも割と難しい。
・水滴の体積あたりのウイルス量は実はこちらの方が高いことがわかっている
・滞空時間が長く、密室だと人がいなくなったあとも空気中を漂う
・小さいため、下気道や肺の奥に到達する危険が高い(怖い)
・部屋の換気が有効
まあこういう違いがあるんですね。
小さい粒子を防ぐためにマスクは高性能なほうがいいのは確かですが、呼吸が苦しいなどのデメリットも当然あります。
一方で、それほど高性能でないマスクにも、大きい粒子の拡散を防ぐ効果は十分に期待できます。
小さい粒子はマスクでは完全には防げないですが、換気を行うことで空間中のウィルス量を低くしておくことが大事になってきます。
こういう知見を活用して、マスクをどう使っていくかをみんなで考えて行こうぜ、ということですね。
ちなみに筆者らは、「とにかくマスクの性能を議論する際には、『どの飛沫サイズの話なのか』を必ず明示して議論すべきだ」と述べています。
粒子の大きさを書かずに「20%だ!」とか「70%だぞ!」とかやるのは、誤解や混乱の元だからやめようぜっていうメッセージですね。
全くそのとおりだと粒沢も思います。
以上、マスクのScience論文紹介でした。
あまりギスギスせず、良いマスクライフを。
前回では、ウィルス量が十分に少ないことが、マスクが効果を発揮するための条件であるという話でした。(その①はこちら)
実際、マスクをすることで、どれくらいの感染予防効果があるのか。
論文の筆者らは、飛沫の大きさごとに口から出る量やマスクの通り抜けやすさ、空気中への残留のしやすさを考慮したモデルをつくり、さまざまな条件下での感染確率を計算したのだという。
↑マスクをしない場合とする場合の、感染成立確率の比較。横軸がマスクをしない場合の感染成立確率、縦軸がマスクをした場合の感染成立確率。「感染者がマスクをした場合」「非感染者がマスクをした場合」「全員がマスクをした場合」がそれぞれ赤、黄色、青で示されている。グレーの領域が、人間社会の多くで発生している感染成立確率の範囲である。
論文中では(不織布の)マスクをすることによる感染率削減効果は、「非感染者よりも感染者がマスクをした方が大きい」。
また、「全員がマスクをするとさらに効果が大きい」という結果が得られた。
なぜかというと、マスクの効果は、全員がマスクをしているのなら、吸う時と吐く時の2回分で効いてくるのだ。
そして、マスクは「空気中のウイルス量が多く、感染確率が高いときには、効果が小さくなる」ということが改めて示された。
次に、マスクをすることによる感染確率変化量をより詳細にみてみる。
もともとの感染確率が低い(図の左方向)ほど、感染確率削減効果が高く(図の上方向)なることがわかる。
逆に、元から感染確率が高い場合は、感染削減効果がほとんどゼロだ。
ウイルスが少なければ、不織布マスクの場合は、感染者のみがマスクをした場合は最大約80%、全員がマスクをした場合で最大約95%の感染を防ぐことができるのだという。
ここからわかることは、マスクは他の手法(たとえばソーシャルディスタンスや換気)をしっかりやった上で、大きな効果を発揮できるということだ。
マスクによる感染防御効果はつねに一定ではないからこそ、あらゆる手段を複合的に用いて環境中のウィルス量を減らすほうが、感染確率は低くなるのだ。
ただし、ここまでの議論では、マスクの飛沫遮断効果は飛沫粒子の大きさの影響を強く受けると言う点をあえてスルーしている。
次回で、粒子のサイズを考慮することの重要性に触れて、この話を締めとしたい。
続く。
マスクの話その②。
前回(その①)では、数理モデルによると、空気中に漂っているウィルス粒子の数が多すぎるといくらマスクをしても防げない場合があるという話だった。
潔癖症の人からすると気持ち悪いだろうが、室内の空気中には他の人の口から放出された水滴が、常に大量に漂っている。
特に、数µm以下の小さな水滴ななかなか地面におちないので、かなり長期間にわたって空気中を漂うことになる。
たとえN95マスクやフィルター付きの防護服を身につけていたとしても、こうした水滴を全く吸い込まないということは不可能なのだ。
こうした水滴の全てにウイルスがいたら大変だ。
N95のような高性能のマスクでも、感染を防ぐ効果は全くないということになってしまう。
だが、実際のところ、空気中のウイルスはそんなに多いのだろうか。
論文の中では、実際に測定をすると、空気中に含まれるウィルス数は“そこまで多くない”ため、マスクをすることで感染成立確率を下げることができると考えられるという。
さまざまな呼吸器感染症の患者から放出されるウィルスの量を計測すると、だいたい30分間あたり30〜100個程度であったらしい。(これは、放出される全粒子の数が30分あたり3,000,000であることと比べると、相当小さいと言える)
また、世界各地の医療機関で、室内の空気を30分間呼吸し続けた場合に体内に吸い込むウィルスの数(Nv)は、おおむね1〜600個であったという。
一方、感染が成立するまでに、一人の患者が吸い込んだであろうウイルスの数の中央値(IDv,50)は、100〜1000くらいだろうと見積もられている。
これらの数字から推定すると、かなりウィルス量の多い条件の室内であっても、マスクは感染の確率を下げるのに有効であると推定される。
吸い込んだらアウトなウイルス量を”厳しめに100”として、”病院”というウイルス数の多そうな場所の値を基準にしても、マスクの効果が無効になるようなウイルス数ではないだろうと推定されるのだ。
↑吸い込んだらダメなウイルス数(IDv,50)を100、病院内で吸い込むウイルス数を1〜600とした時の感染してしまう確率。空気中のウイルス量は、右側の「ウイルス多すぎてマスク無意味ゾーン」には到達していない。したがって、マスクをする効果は十分にありそうと予測できる。
なるほどね〜。
効果がゼロではなさそうなのはなんとなくわかったけれど。
しかし…たかがマスクにどれくらいの予防効果があるの?
…というのが次回の内容。
これが意外に効果がでかいらしいんだわ。
マスクの有効性に関してなにやら計算した論文がScienceに出ていた。
Science載るんだというのが意外ではあるが、それだけ世界的にマスクの着用の是非に注目が集まっているということなのでしょう。
Face masks effectively limit the probability of SARS-CoV-2 transmission
Cheng et al (2021) Science
https://doi.org/DOI: 10.1126/science.abg6296
論文を発表したのはドイツ、中国などのグループだそうで。
マスクをすることで透過してくる粒子の割合は普通の不織布マスクだと30-70%くらいだと言われているらしいが、「その程度しか粒子をカットできないのなら、マスクしてもしなくても変わらないんじゃないか?」という指摘が出ていた。
確かに、「N95マスクなどの5%程度しか粒子を通さないマスクの場合はまだしも、普通のマスクでは多くの粒子がすり抜けてしまうので意味がない」と言う意見は、それなりに合理的なように思える。
一方で、マスクを着用する習慣のある国の方が流行の度合いが小さいというデータもあり、やはりマスクは有効そうにも思える。
そこで、過去の研究で明らかになっている空気中の粒子の挙動などから、真面目に計算をしてみたんだそうだ。
それでわかったことは、マスクは意味がある時とない時がある。
直感的に考えたら、ウィルスを90%カットするマスクをしていたら、吸い込むウィルスは90%減って感染する確率も常に90%くらい下がりそうだが、そうとも限らないらしい。
そもそも、空気中に漂っているウィルス粒子が多すぎる時は、いくらマスクをしても感染を防ぐことができないという。
その意味では、マスク反対派の言っていることはある意味正しい。
どういうことかというと、一つの粒子からウィルスが人間に感染してしまう確率をPとすると、「N個のウィルスを吸い込んでも感染しない確率」は
(1−P)^N
で表される。
つまり、「N個のウィルスを吸い込んだ結果感染してしまう確率」は、
1 –(1−P)^N
で表されるのだ。
このPの値は0.01~0.001くらいではないかと言われているが、いずれにしても、吸い込んでしまうウィルス粒子の数Nが多すぎると、最終的な感染成立確率はどんどん大きくなり、100%に近くなると予想される。
↑吸い込んだウィルス数と感染成立確率の数理モデル。縦軸が感染成立の確率、横軸が吸い込んだウィルス数。マスクしていないとき(Nv)とマスクしているとき(Nv, mask)の感染確率は、もともと吸い込んでいるウィルスがあまりにも多い場合はどっちも100%近くになってしまう(上段A, B)。しかし、十分に少ない場合は、マスクを使うことで感染成立確率を下げることができる(下段C, D)
あまりにも環境中を漂うウィルス数が多くなりすぎると、マスクをすることで吸い込むウィルスを減らしたとしても結局感染成立確率が100%近くになってしまい、意味がないということがありうるのだ。
だが、”そういう状態は本当に現実の世界で起こりうるのだろうか?”というのがこの話のポイントである。
続く