そういうわけで、認知症治療薬(自称)のアデュカヌマブはなんとかFDAに承認されたはいいけど、いろいろ問題が山積み。(大規模治験編その①はこちら)
いろいろ詳しくみてきたけど、自分が老境に差し掛かった時に、アデュカヌマブを使って認知症を防ぎたいと思うかと言うと、現時点ではやっぱりノーだなあ。
よっぽどお金が有り余ってたら別かもしれないけどね。
じゃあ今後はどうなるのって話ですが。
今後のアデュカヌマブがらみの注目ポイントとしては、以下のような点にまとめられると思う。
1. 利用者にとっての価格は?保険適用になるのか?
価格が量産化で安くなったり、保険適用になったりすれば、利用者は増える。
だが、公的な保険適用で賄う場合は、薬を使わない納税者への説明は非常に難しくなると思う。
今の時点では粒沢は反対だなあ。
やるなら、「アデュカヌマブ使うかもプラン」みたいなのを用意して、あらかじめ高額の保険料を上乗せして払った人だけにすべきじゃないかな。
2. 薬の効果が出やすい条件は見つかるのか?
今の時点では、薬の効果が出る人と出ない人がいる。
薬の効果が出ない人に高価な薬を投与するのは、副作用の懸念もさることながら、薬を”無駄打ち”することになるので、成果報酬型の価格設定の元では薬価の高騰につながってしまう。
なるべくなら、効果が出る人に限定して薬を使いたいよね。
EMERGEやENGAGEの治験と同じような投与の仕方をしても、やっぱり微妙な結果しか出ないだろう。
ただ、もしかすると「ある特定の条件に合致した人(何らかの遺伝的な変異をもつとか、脳内のアミロイド量がいくつ以上とか)には、有効性が高い」といった条件が今後見つかってくるかもしれない。
そうなれば、アデュカヌマブの利用価値が上がるという展開も一応ワンチャンある。
逆に、そういう条件でも見つからないと、承認後再審査を突破するのは、現実問題そうとう厳しいだろうね。
3. 長期間投与すると薬の効果はどうなるのか?
あとは、長期間投与したときの認知症抑制効果がどれくらいなのかも気になるな。
治験だと1年半くらいしか投与できなかったけど、それ以上ずっと継続したら、認知症進行抑制の差がプラセボ群と投与群の間で大きくなる可能性も一応あるよね。
長い間投与し続ければ重篤化をかなり抑えられるというなら、面白くなるかもなあ。
4. アミロイドを標的とする以外の戦略は?
科学や医療に詳しい専門家たちも、さすがに今回の件はどちらかというと失望気味の反応の方が大きいようで、「βアミロイドをを減らせば認知症進行を抑えられるはず」という戦略そのものがオワコンなのであきらメロンと指摘する声もある。(Herrup and Goulazian "Bad medicine: aducanumab is a lackluster drug with a high price tag"とか)
なにしろ、アデュカヌマブはβアミロイドをはっきりと現象させたのにもかかわらず、認知症の改善・予防効果はかなり限定的だったからね。
代わりに、それ以外の手法に注目が集まりつつある。
たとえば、タウというタンパク質も認知症の原因であるといわれており、これを標的とする治療法が開発研究されている。(abcam「タウ・タンパク質とアルツハイマー病」)
βアミロイドに見切りをつけた製薬会社や投資家たちが、今後はこうした別手法による認知症治療に投資をしてくるだろう。
仮に、きちんと効果があって、安価で、副作用の心配のない治療法が見つかったら、すごいインパクトだし、儲けもすごいことになるわけだからね。
そういうので今後いけそうなやつが出てくるかどうか、ですね。
なんにせよ、人類が認知症治療そのものを諦めるには、まだ早すぎるということのようだ。
じゃあこの話はこのへんで。お疲れ様でした〜。