VITTになる人は5〜10万人に1人くらいおり、そのうち5分の1ほどが死亡してしまうという。(前回はこちら)
10万人に1人というのは、まあ実際のところ、相当低い確率だ。
サイコロで言うと、6面の普通のサイコロを6個同時に振って、一発で全部「1」を出す確率が、10万分の1に近い。(1/6 × 1/6 × 1/6 × 1/6 × 1/6 × 1/6 = 1/46656)
普通に考えて、日常生活としては起こり得ない確率というべきだろう。
だが、数十万人が同時にこのゲームをしたら、期待値として数人は”当たってしまう”のも事実だ。
確率は低いとはいえ、VITTは1/5で死亡するらしいし、死亡しないにしても後遺症の残る可能性も(おそらく)あるし、しかも年齢にあまり関係がなく発生しているように見える(前回参照)。
避けられるなら避けたいことは間違いない。
一方で、ワクチンを打つことのメリットは新型コロナに感染して死亡する確率をかなり減らすことができるというところである。
そもそも新型コロナで死亡する年齢別の確率はどんなものだろうか。
昨年の秋にNatureに載った研究(O’Driscoll et al, 2021, Nature. https://doi.org/10.1038/s41586-020-2918-0 )によると、世界中のデータを元に推定した結果では、新型コロナに感染した後に死亡する確率は、20代で大体1万分の1、30-40代で千分の1、50-60代で1パーセント前後、70代以上で数%〜数十%くらいらしい。
(もしかしたら、デルタ株だとこれよりも高いかもしれない。)
↑O’Driscollらの推定による、新型コロナ感染後の死亡率。年齢が上がるほど基本的に死亡率が上がる。縦軸が対数であることに注意。
厄介なことに、「アストラゼネカのワクチンで、5〜10万分の1の重大な副作用」というのは、特に20代以下の人にとっては、新型コロナに感染して死亡してしまう確率と割といい勝負をしてしまうようだ。
当然ながら、いろんなこと(感染してしまうことの確率をどれくらいに見積もるかとか、死なないまでも感染することの不利益や苦痛、後遺症など…)をどう考えるかにもよって、結論は変わりうる。
しかしながら、考えようによってはワクチンのリスクが上回ってしまうことすらありうるラインだ。
ほとんどの人にとってメリットが上回りそうだと思うけれど、正直絶対の自信を持って万人に推奨できるほどでもないと粒沢は思う。
20代の若い人は、現状では可能であればファイザー・モデルナなどの他のワクチンを打った方がいいかもしれない。
5〜10万分の1はとても低い確率だが、「だからこのワクチンは問題ない」と言えるとは限らないのではないか。
接種に当たっては、慎重なリスクとメリットの比較の議論と、丁寧な説明が必要だと思う。
まあ、血栓症の原因が特定されて、問題が解決するのが一番良いのですけどね。