”すみっコぐらし”とは、部屋の隅っこを「ここが落ち着くんです」と言って集まってくるような、おとなしくて若干ネガティブ寄りのゆるいキャラクター達が登場するタイトルで、グッズが作られたりアニメが作られたりしている。
寒いのが苦手な「しろくま」とか、本当はペンギンじゃない「ぺんぎん?」、脂身が多すぎて食べ残された「とんかつ(の切れ端)」など、アイデンティティが薄弱でありさえすれば生物と死んだ動物の肉が対等な顔をして登場するという、独特の世界観を有する。
子供から大人まで幅広い世代に人気があるらしい。
今回観た映画『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』はシリーズ3作目、だそうだ。
内容はなかなか面白くて、ネタバレは避けるけど、油断して見ていたら不覚にも泣いてしまうなどした。
(粒沢さんはアイデンティティが希薄な存在が健気かつ必死にバリューを出そうとする話に案外弱いところがあります)
それで、その映画のテーマソングがPerfumeによる「すみっこディスコ」である。
サビは「Watching, watching すみっこディスコ」と繰り返すだけの非常にシンプルな歌詞だ。
そもそもシンプルな歌詞が多いPerfumeとはいえ、その中でも1ループが相当に短いのではなかろうか。
だいたい「Watching」とは誰が何を見ているのか。
すみっコぐらしの面々は、基本的に引っ込み思案であり、部屋の真ん中で目立つ資格がないとか考えているタイプのキャラクターが多い(例外もいるが)。
踊って場を盛り上げるのは他の誰かがやっている。
一見すると、いてもいなくてもおんなじ。
そんなごく淡い存在感しか持たない者同士だけど。
それでも「僕たち」はお互いを見ている。
存在していることを確認しあっている。
それだけで、存在する理由としては十分ではないか。
映画のストーリーを見たあとの解釈も含めれば、そんな「存在することに対する赦し」を感じる楽曲に思える。
そういう意味で、「Watching, watching」という歌詞は考えれば考えるほど見事だ。
第一印象こそ「何がWatchingなんだ?」と少々取り残された感じがあったが、実は1種類2単語で、「すみっコぐらし」という作品の本質を射抜いている、のではないだろうか。
実に美しい。そう思います。
おそらく作詞作曲の中田ヤスタカに対して
「中田さんーすみっコぐらしのために一曲作ってくださいよ、チョコレートディスコみたいな感じで、タイトルはすみっコディスコで!www」
みたいなある意味ざっくりした依頼があって作られた曲なのではないかと勝手に想像しているが。
きっかけは雑でも、作品のテーマを完璧に読み解いた上でPerfumeらしさ、中田ヤスタカらしさを加えたスタイリッシュな曲と歌詞を作ってしまう。
さすがプロの仕事、と言わざるを得ない。
見てから一週間ぐらいずっと「Watching, watching すみっこディスコ」が脳内ループしているのである。
中田ヤスタカすごいですね。天才です。