若い頃は人気アイドルグループのメンバーだったという母は、いわゆる芸能人として世間的に知名度もあったので、結婚して芸能界を引退した後も度々メディアで話題になるような人だった。
僕が小さい頃に、ベストマザー賞という賞をもらったことがあるらしい。
名誉なことだ、と思うかもしれないがその後の展開が全然名誉じゃなかった。
母がベストマザー賞をもらってから一年も立たないうちに母の不倫が発覚。
出会い系アプリで出会った男性とイチャイチャしていたのがバレてしまった。
なんでもウーマナイザーという器具を使って行為をしていたらしい。
僕は小さかったからよくわからなかった。
ウーマナイザーという単語も、成長してから母のウィキペディア記事を読んで知った。
さらに、不倫報道の数カ月後には、父が詐欺の疑いで刑事告訴されてしまった。
なんでも父の経営していた会社が儲かる見込みのない太陽光発電投資でお金を集めて失敗し、沢山の人に迷惑をかけてしまったらしい。
これも当時僕は小さかったからよく分からなかった。
父の逮捕で当然母も無傷とはいかず、母も会社の経営に携わっていたり、元有名人の立場を使って会社の広告塔のようなことをしていたから、マスコミやネットでは相当バッシングされた。
元・ベストマザー賞受賞者が不倫をした上に、投資詐欺までやっていたということで、「どこがベストマザーなんだ」と書き込む人が多かった。
今となればそう書き込みたくなる人の気持ちもわかる。
父親以外の男と夜をともにしたり、詐欺で人さまのお金を使い込むような女性は、はたして「最高のお母さん」という称号にふさわしいのか。
おそらく世間的には、否、ということになるだろう。
だが、一方で僕は思うのだ。
母は不倫はしたが、そうした行為をしていたことを少なくとも発覚するまでは家庭に持ち込まなかった。
父の会社での詐欺行為に加担したことは事実だが、それはある意味では自分の家族のためでもあったろう。
何より、父が逮捕されその後有罪になり収監されたあとも、母は女手1つで僕を育ててくれた。
証拠不十分のため、詐欺については母は不起訴で済ませてもらえたということももちろんあるのだけれど。
母の僕に対する愛情は、本物だったと思う。
そんな母は、たとえ不倫や犯罪をしていても、きちんと「母親」だったと、言えるのではないだろうか?
僕にとっては、母以外に母親はいないのだ。
母のお陰で今の僕があるのだ。
そんな僕も大人になり、今ではNPOを経営している。
様々な理由で親と離れて暮らさざるを得なくなった人を援助するNPOだ。
何をかくそう、母が設立を手伝ってくれて、母が厚生省の役人に働きかけてお金を出してもらい、母が僕を理事長に据えてくれたのだ。
実を言うと母は頭がよく、アイドルをやめたあと東大に進学して、懸賞論文で賞を取ったこともあるくらいなのだ。
厚生省の役人にも知己が多い母にとっては、それくらいの裏工作は朝飯前だったのだろう。
もしかすると、投資詐欺で有罪にならなかったのも、母の政治力の賜物だったのかもしれない。
母に全く似ず、成績も悪く、就職しても長続きせず、何をやっても全くだめだった僕。
そんな僕も、今では立派に母が設立したNPOの理事長として収入もあれば、地位もある。
息子のためにここまでしてくれる母親は、世界にそうはおるまい。
母のお陰で今の僕があると言っても、本当に全く過言ではないのだ。
ありがとう、お母さん。
僕の世界一のお母さん。