粒沢らぼ。

当ブログでは現役生命科学系の研究者が、気になった論文を紹介したり、考えていることを共有したりしています。可能な限り意識を”低く”がモットー。たまに経済ネタとかも。
書いてる人:粒沢ツナ彦。本業は某バイオベンチャーで研究者をやっています。本名ではないです。
博士号(生命科学系)。時々演劇の脚本家、コント作家、YouTube動画編集者。アンチ竹中エバンジェリスト、ニワカ竹中ヘイゾロジスト。
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カテゴリ: 小説

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若い頃は人気アイドルグループのメンバーだったという母は、いわゆる芸能人として世間的に知名度もあったので、結婚して芸能界を引退した後も度々メディアで話題になるような人だった。


僕が小さい頃に、ベストマザー賞という賞をもらったことがあるらしい。

名誉なことだ、と思うかもしれないがその後の展開が全然名誉じゃなかった。

母がベストマザー賞をもらってから一年も立たないうちに母の不倫が発覚。

出会い系アプリで出会った男性とイチャイチャしていたのがバレてしまった。

なんでもウーマナイザーという器具を使って行為をしていたらしい。

僕は小さかったからよくわからなかった。

ウーマナイザーという単語も、成長してから母のウィキペディア記事を読んで知った。


さらに、不倫報道の数カ月後には、父が詐欺の疑いで刑事告訴されてしまった。

なんでも父の経営していた会社が儲かる見込みのない太陽光発電投資でお金を集めて失敗し、沢山の人に迷惑をかけてしまったらしい。

これも当時僕は小さかったからよく分からなかった。


父の逮捕で当然母も無傷とはいかず、母も会社の経営に携わっていたり、元有名人の立場を使って会社の広告塔のようなことをしていたから、マスコミやネットでは相当バッシングされた。

元・ベストマザー賞受賞者が不倫をした上に、投資詐欺までやっていたということで、「どこがベストマザーなんだ」と書き込む人が多かった。


今となればそう書き込みたくなる人の気持ちもわかる。

父親以外の男と夜をともにしたり、詐欺で人さまのお金を使い込むような女性は、はたして「最高のお母さん」という称号にふさわしいのか。

おそらく世間的には、否、ということになるだろう。

だが、一方で僕は思うのだ。

母は不倫はしたが、そうした行為をしていたことを少なくとも発覚するまでは家庭に持ち込まなかった。

父の会社での詐欺行為に加担したことは事実だが、それはある意味では自分の家族のためでもあったろう。


何より、父が逮捕されその後有罪になり収監されたあとも、母は女手1つで僕を育ててくれた。

証拠不十分のため、詐欺については母は不起訴で済ませてもらえたということももちろんあるのだけれど。

母の僕に対する愛情は、本物だったと思う。


そんな母は、たとえ不倫や犯罪をしていても、きちんと「母親」だったと、言えるのではないだろうか?

僕にとっては、母以外に母親はいないのだ。

母のお陰で今の僕があるのだ。


そんな僕も大人になり、今ではNPOを経営している。

様々な理由で親と離れて暮らさざるを得なくなった人を援助するNPOだ。

何をかくそう、母が設立を手伝ってくれて、母が厚生省の役人に働きかけてお金を出してもらい、母が僕を理事長に据えてくれたのだ。

実を言うと母は頭がよく、アイドルをやめたあと東大に進学して、懸賞論文で賞を取ったこともあるくらいなのだ。

厚生省の役人にも知己が多い母にとっては、それくらいの裏工作は朝飯前だったのだろう。
もしかすると、投資詐欺で有罪にならなかったのも、母の政治力の賜物だったのかもしれない。
 
母に全く似ず、成績も悪く、就職しても長続きせず、何をやっても全くだめだった僕。

そんな僕も、今では立派に母が設立したNPOの理事長として収入もあれば、地位もある。
息子のためにここまでしてくれる母親は、世界にそうはおるまい。


母のお陰で今の僕があると言っても、本当に全く過言ではないのだ。

ありがとう、お母さん。

僕の世界一のお母さん。


※”アヘ顔杯”なるアヘ顔ダブルピースで短編小説を書く大会のようなものがあるとツイッターのタイムラインで見かけて、面白そうだったので勝手に参加しました。よろしくお願いします。





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『グレースケール』

今日も俺は、女に頭を下げる。


「他に何もしませんから、アヘ顔ダブルピースを見せてください!」


だが、わかっている。

俺の求めるアヘ顔ダブルピースには、どの女も程遠いことを。


アヘ顔ダブルピースを頼み込んだときの女たちの反応は様々だ。

苦笑するやつ、ゲラゲラ笑うやつ、「キモイんだよおっさん」などの罵詈雑言を投げるやつ、「いくらくれるの?」と交渉に入るやつ。

路上で声かけの成功率は3割ほどだ。

ネットや出会系アプリなら、金次第で引き受けてくれるやつはたまにいる。

金を要求された場合は言われた金額をほぼそのまま払っている。

今までアヘ顔ダブルピースを披露してくれた女は、おそらく300を超えるだろう。

俺はその一人ひとりのアヘ顔ダブルピースを目に焼き付ける。

いや、正確には焼き付けようと努力する。

だが、どのアヘ顔ダブルピースも、見せつけ終わった10秒後には、記憶がおぼろげになって崩れて消えていく。

ただの一回を除いては。


それは俺が幼稚園児のころ、近所に住む2個ほど年上の“お姉さん”がいた。

名をリナちゃんと言ったと思う。

よく見かける子だと思っていたが、一度だけそのリナちゃんの家に行ったことがある。

理由は忘れたが、親同士が仲が良かったとか、そんなところだろう。

人見知りな俺と、人見知りなリナちゃん。

二言三言あいさつを交わしたあとは、リナちゃんは年下の男と遊んでもつまらないと思ったのか自室にこもってしまった。

そんなリナちゃんをほうって一人遊びしていた俺だったが、突然、お姉さんが部屋で何をしているのかを知りたくなった。

親たちは会話に夢中で気付かない。

こっそりとリナちゃんの部屋のドアノブに手をかけ、中を覗いてみた。

リナちゃんは、壁際の大きな姿見に向かって、ふざけた変な笑顔をしながら両手でVサインを作っていた。

衝撃的だった。

リナちゃんは特別美人ではなかったと思うが、大人しそうで人前でふざけたことをしないタイプの女性に見えた。

そんなリナちゃんが、一人で部屋に向かって、なぜかあられもない醜態をさらけ出している。

俺は正直に言って興奮した。

見てはいけないものを見たという感覚。

そして、何かものすごく得をしたという感覚。

リナちゃんのアヘ顔ダブルピースを見たことは決して悟られてはならない。

そう思って、俺は物音一つ立てずに親のもとに逃げ帰った。


大人になって、大学を卒業し、地味ながら安定した売上のある商社に就職した。

順風満帆とまではいかないが、まずまず安定した人生。

そんな俺の頭からは、なぜか幼稚園児のころのリナちゃんのアヘ顔ダブルピースの記憶が消えずに残ったままだった。


もう一度、あのときのような美しいアヘ顔ダブルピースを見たい。

いつしか、その思いから街で女性に声をかけたり、ネットの掲示板で要求に応じてくれる人を探すようになった。

だが、どのアヘ顔ダブルピースも、俺を満足させてはくれなかった。

こちらが頼み込んで見せてもらうアヘ顔ダブルピースは、ニセモノのアヘ顔ダブルピースだ。

所詮は、ただの演技だ。

わざとらしさや、カネのためといった欲望が見え隠れする。

ホンモノでもなければ、美しくもない。

初めは期待と共に始めた営みも、気がつけば自分の希望を満たすものが存在しないことを確かめるだけのものになっていった。

アヘ顔ダブルピースの観測数が350を超えた頃、ついに俺は頼み込むのをやめた。

そして、地元の婚活パーティーで出会った大人しそうな女性と結婚をした。

結婚前も結婚後も、妻に対して例の頼み込みをすることもなかった。


数年後、妻から妊娠を告げられた。

女の子だという。

ついに俺も親になるのか…という誇らしさと諦めが同時にやってきたが、さすがに嬉しい気持ちが勝ったようだ。


妻に伴って産婦人科に行き、医師の説明を聞く。

そんなことを数週間に一回繰り返す。

そうして何度目かの診察のときに、“それ”は起こった。

エコー検査のときに、医師が驚きの声を挙げたのだ。

「あっ見てください、手がちゃんとできてますね。あっこれVサインしてますよ!…えっ?両手!?」

胎児のエコー検査で画面に写った白黒の指が、確かに中指と人差し指を立ててVサインしている。

もちろん両手だ。

「こんな赤ちゃん、初めて見たかも…」

医師が驚きの声を挙げる。

たまらず俺は聞いた。

「先生!!顔は…表情はどうなっていますか!!」

医師は束の間たじろいだが、プロらしく即座にエコーで顔を探し出してくれた。

「顔は…口が開いてますね。笑ってます。綺麗な顔です。良かったですね。」

言う通り、胎児の口は半開きで、微かに笑っているように見える。

誰にも頼まれもしない…それどころか、自分の顔すらも見えない仄暗い羊水の中で、これ以上ない見事なアヘ顔ダブルピースを披露する。

これが、我が娘。

俺は医師と妻の両方に対して、深々と頭を下げた。


「俺は今日という瞬間を、死ぬまで忘れないと思います。本当に良いものを見せて頂きました。本当にありがとう」


3DのCGで画面に再構成された胎児のまぶたが、少しだけ開いたように見えた。


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(前回まで:打ち合わせだと思って長谷部の部屋に行ったコンサルタントの秋山は、性的な誘いを受け…。1/2はこちら

俺は誘われているのか?やるのか?あれを?憧れの長谷部さんと?

憧れってそういういみじゃないんだけど??


「じょ、冗談…ですよね?」

「本気だよ」


憧れの長谷部さんのゴツゴツした手が秋山の尻を撫でて、股間に伸びる。


秋山の脳裏に、一瞬故郷の両親の顔が浮かぶ。


「長谷部さんて、そういう趣味だったんですか」

「悪いかい?」

「いえ、今どきはLGBTも当たり前だと思いますし…」


長谷部さんの顔が優しく歪む。


「じゃあ、問題ないな」 


駄目だ、と秋山は思った。

俺は、長谷部さんにオーケーをもらうために生きている。

すべてを観念した秋山の耳は、長谷部さんのスーツのベルトが外される音を聞いた。



それから10年。

秋山はコンサルタントを辞め、実家の町工場を継いでいた。

経営は正直苦しく、毎月の支払いに頭を悩ませる毎日だ。


長谷部さんは相変わらずマネージャーとして活躍していると聞く。


あの件があってからしばらくは目をかけてくれた長谷部さんだが、その後別のプロジェクトにアサインされてからは音信不通になってしまった。


世間では女性が過去に受けたセクハラ行為を告発するのが流行っているらしい。

自分も長谷部さんとのことを告発したら慰謝料がもらえるだろうか。

そんなことを思うことも二度や三度ではない。

だが、そんな告発をしても自分の名誉が失われてみじめになるだけだ。

なんのメリットもない。

そこまで男として落ちぶれちゃいないよ。とつぶやいてみる。


最近は、秋山は長谷部さんの腹心の部下として最近メディアやネットで名前をよく見る男が気になる。

川谷というその男は、スポーツマンふうの清潔感のある、エリート然とした優秀そうな人物だ。

会社では、秋山の2年後輩にあたるが、すでに秋山の退職時の役職よりも昇進している。

こいつも、長谷部さんと夜を過ごしたのだろうか。

こいつも、また別の男と寝たりするのだろうか。


スーパーで買った安物のワインをマグカップで飲んでいると、思考がいい具合に淀んでくる。

いつかは、俺も、また…。


「また」ってなんだ?何が「また」なんだ?


秋山の口角が、自分でもわからないくらいわずかに持ち上がる。


さあね、とにかく、いつかは俺もまた…なんだ。




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今思えば、マネージャーの長谷部さんのホテルの部屋に仕事の打ち合わせに行ったときに、ワインがおいてあったのが、そもそもおかしかったのだ。


新卒で入ったコンサル会社で3年目の秋山は、仕事もやっと覚えてきたところで、毎日早朝から深夜まで働くで忙しい毎日だが、仕事も覚えてなんとか回せるようになってきたところだった。

雲の上の存在と思っていたマネージャーの長谷部さんに、新しいプロジェクトを担当するから京都への出張に同行するように言われた。


努力が認められた。

昇進のチャンスかもしれない。

素直にそう思った。


顧客の大手通信機器メーカーとの打ち合わせでは、自分なりに努力してプレゼンを準備した。

長谷部さんには「うん、この内容なら問題ないな」と一発OKをもらえた。

自分も成長しているような気がして、嬉しかった。


クライアントの通信機器メーカーとのミーティングで、相手側の社長に「この案件の中で秋山さんの役割は何なんですか」と聞かれたときは少し狼狽した。

長谷部さんに「彼は言わば見習いですので、これから仕事を覚えてもらう必要があります。未熟ですがどうぞよろしくお願いします」と言わせてしまった。

未熟者…本当にそのとおりだ。もっともっと、いろんなことができるようにならなくては。

長谷部さんみたいに。


その夜、宿泊先のホテルで仕事の打ち合わせがあると長谷部さんの泊まっている部屋に呼び出された。

テーブルの上には、綺羅びやかなラベルの高そうなワインが鎮座していた。

長谷部さんの年収は数千万円と聞いたことがある。

いつもこんな高そうなものを仕事が終わったら飲むのだろうか。

さすが肩書も収入も立派な人は違うな。

自分にはわからないが、きっとヴィンテージの良いワインなのだろう。


そう思っていると、背後から長谷部さんがやってきた。

グラスを2つの手に持っている。

「仕事の打ち合わせじゃなかったのですか?「まあいいよ、少し飲もう」

よく見ると、心なしか顔が赤い。

コンサルタントをやっていると、こういうこともあるのか、知らなかった。

仕事って面白い。


今のプロジェクトの話をしばらく交わしたしたのちに、長谷部さんが秋山に質問してきた。

「君はコンサルタントのやりがいってなんだと思う?」

秋山は少し考える。責任ある仕事、高めの年収、それとも…?

「いまは知らない世界の事を知るのが純粋に楽しくて、やりがいがあると感じています。」

「そうか…。」

長谷部さんがじっと俺の目を見て言う。


「確かに、知らないことを知るのは大事なことだ。たとえばこっちの方はどうかな?」


そう言って長谷部さんは、座ったまま手を伸ばして、秋山の脚を撫でてきた。


え?なんだこれは??

秋山は狼狽した。


続く


(その①はこちら前回はこちら

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オレが有名になって、俺の研究を知るやつが増えると、厄介な依頼も増えた。
オレに顕微鏡の作り方を教えろだの、顕微鏡観察の学校を開けだの、そういうやつだ。
めんどくせえから全部断ったけどな。
オレは別に有名になりたかったわけでも、偉い先生サマになりたかったわけでもねえ。
ましてや生活に困ってたわけでもねえ!
ただ、新しいことを知ることができたらそれで満足なんだ。

あいつらは「科学の発展のため」とか偉そうなこというけど、オレは独学で自分なりの方法を編み出したんだ。
別にほかの偉い科学者に助けてもらったわけじゃねえ。
オレの手法を世界の共有財産にしなきゃいけない理由なんてどこにもないぜ。そうだろ?

世の中には有名になりたいだけのくだらんやつが多いからな。
俺が精子を発見したときも、うっかりハルトストーカーとかいう数学者に喋っちまったら、そいつが俺の成果をパクってフランスで発表しやがったんだ。
すぐにバレたみたいだけどな。
世の中広いから、そういうやつがいるのは仕方ねえ。
だが、俺の周りにはいてほしくねえな。

だいたいよ、金儲けや地位のために科学をやるなんて、世の中の奴らは同期が不純なんだよ!
科学的探究は、あくまで趣味!本業を別に持って収入を確保しないから世の中のやつは駄目なんだ!

なにい?お前は呉服屋で成功したからよかっただけだろって?
現代のポスドクは職がなくてタイヘン?
そうだよ、オレは若い頃から呉服屋で商いの修行を積んたんだからな!それで何が悪い!
お前らも科学で食うとか言ってないで、全員呉服屋になれ!

オレが言いたいことは以上だ!じゃあな!!

【あとがき】
毎回参考文献にあげている「シングル・レンズ」という本を読んだら、レーウェンフックという人はこれまで名前くらいしか知らなかったが、実はとても面白い人生を送っていたのだなと思った。
ただ、シングル・レンズの本の中では、著者のフォード教授が調査した順番で物事が書かれていて、実際の歴史の時系列ではどういうことがあったのか、わりとわかりにくい。
どうせなら、レーウェンフックの人生で起きたことを、時系列通りに、彼の口から語らせるのが面白いんじゃないかと思ったので、やってみた。
やや下品で粗暴な語り口にしたのは粒沢の創作で趣味だが、もともと彼は偏屈者の部類だと思うので、わりと外れてないのでは?と思っていたり。
読んだ方がどう思ったかは知らないが、粒沢としては洞察力と運に恵まれた変人の人生を追体験した気持ちで、とても楽しかった。
これを読んだ誰かが、レーウェンフックという人の研究成果だけでなく、彼の特異だけども人間らしい生き様に興味をもつきっかけにでもしてもらえたら嬉しい。

参考文献 B. Ford著、伊藤智夫訳「シングル・レンズ 単式顕微鏡の歴史」

(11月26日の分の更新です)

 

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