マスコミやSNSを中心に「医師達は全然努力していないで自粛を呼びかけるばかり」「尾身会長の分科会が失敗したから感染が拡大した」みたいな言説が目立ちますね。
医師の人たちはコロナの流行下において実際頑張っていると、粒沢はもちろん思うのだ。
だけど、こうした医師や医療関係者に対する不満が噴出してしまうのも、良し悪しは別として気持ちとしてはわかる気がするのだ。
なぜ、医師達が余裕なく働いていると言っているのに、医療関係者でもない素人が「それは嘘だ!」「医者達がサボっている!」などと特に根拠もなく言いたがるのか。
その答えは、我々はどうあがいても結局医療を全く利用しないわけにはいかないというところにある。
例えば、近所のラーメン屋のオヤジの態度が気に食わないとか喧嘩したとかなら、そのラーメン屋に行かなければいいだけの話だ。
別にラーメン屋なんて他にもいくらでもあるし、ラーメン以外の外食を利用してもいいし、なんならスーパーで買って自炊したりしてもいい。
代替手段が無限にあるのだ。
一方、どんな人であっても、医療を利用しないというのは現代社会においてはなかなか難しい。
どんなに健康に気をつけた生活をしていても、一切病気などにならないというのは現実的にはありえないだろう。
コロナの流行下であればなおさらだ。
それに、仮にものすごく健康管理に気をつけて、コロナだけでなく一切の病気にならなかったとしても、ある日突然車に轢かれて重傷を負うと言う可能性もゼロではない。
女性であれば妊娠出産のようなライフイベントもある。
医者が気に食わないなら医療を利用しない!と高らかに宣言することができたらどんなに楽か。
だが、ほとんどの人はそこまで本心から言い切ることができないのだと思われる。
要するに、認知的不協和というやつだ。
医者が気に食わないのに、医者に世話にならないわけにはいかないという、二つの相反する心理が一人の人の中に同居することで、この上ない不快感をもたらすのだ。
冒頭述べたような言説は、こうした認知的不協和から人間の魂を解放してくれる効果がある。
「医者が悪い」「サボっている」ということにすれば 、(真実かどうかはさておき)悪いのは威張っているくせに仕事をさぼっている医者の方だ、ということにできるからね。
マスコミやネット論客の中には、あえてそうした心理につけこんで人々の注目を集めて、金儲けに利用しようとする人も多くみられる。
褒められたことではないが、まあある意味では賢いともいえる。
良し悪しは別として、現代のコロナ禍というのは、そういう「不協和を解消してくれる認知」に対する需要が高まっている時代だということなのだ。