2月29日の18時からNHKで放送されていた安倍総理の会見を見たが、コロナウィルスのPCR検査について、「検査の中で2、3時間を要しているウイルスを検出するための作業を15分程度に短縮できる新しい簡易検査機器の開発を進めています。」と述べていた。
(会見の全文は産経新聞のウェブサイトから閲覧できる)

ここで言っているのは産総研が開発して杏林製薬から発売されているGeneSoCのことであるのがこれまでの報道などからほぼ明らかである。
ウィルスのPCR検査の細かい工程についてはこのブログの2月12-14日の記事(コロナウィルス の検査って何をするの その①その③)などを参照してほしいが、とにかくここで大事なのは、この機械で短縮できるのは、検出の最後のPCR増幅反応と確認の部分だけである。
ウィルスのRNAを取り出した後の、PCR増幅反応とその確認の部分が15分になるということを言っている。

安倍総理の発言は、とりあえず“正しい”。
誤解を招くと言う批判はありうるが、分かりやすさを重視して言い換えたと言える範囲のもので、少なくとも間違ってはいない。
総理のスピーチ原稿には、専門家による念入りな手直しがあったことがうかがえる。
安倍総理自身が技術的な内容をそこまで理解しているかというと、それは別の話だけど。

一方、安倍総理の会見後のNHKの解説役の人は、「PCRの検査を15分で検査できるようにする」と、あたかも6時間程度の検査時間全体が15分に短縮されるかのようなことを言っていた。
(発言内容を一言一句覚えているわけではないし手元に映像がないので確認できないが、そういう内容のことを言っていたのは覚えている)

PCR検査が15分で結果が出ると言ってしまっては、申し訳ないがほぼデマ同然である。
専門家以外にはなかなか伝わりにくいところだが、検査そのものに決して短くない時間と設備と労力がかかると言うのはこの問題の肝の1つであるので、報道機関にはもう少しがんばって欲しい。(元々民放には期待してないが、NHKはもうちょっと頑張れ。)
ツイッターでちょっと検索すると、案の定、多くの人が「検査が15分」を信じている ようであった。

安倍総理の言っていた新しい技術を使ったとしても、検査をするには、検体を専門の設備を有する検査機関に輸送する必要がある。
その輸送の手間は全く変わらない。
また、輸送は別としても、RNA抽出などの工程も含めた検査の工程全体としては、どんなに急いでもおそらく2時間程度はかかる。
さらに検査結果を間違いがないようにまとめたり、医療機関に結果を返送する手間もあるから、この技術による検査の効率向上は、現実的にはせいぜい2倍程度になるかどうか、だと思われる。

インフルエンザの簡易検査キットのように、抗体を使った瞬時に結果が出るキットの開発や性能の検証にはもうしばらく時間がかかる。
個別の病院で気軽に検査が出来るようになるのは、おそらく数ヶ月は先のことである。
検査のうちどれが必要でどれが不必要かは一概には判断できない部分もあるが、現状では検査対象者を急激に増やしたところで対処できないことは確実である。

それでも検査数を大幅に増やす必要があるとしたら、民間の検査会社の活用などで、どれだけ検査の人員(マンパワー)を確保できるかが重要になるだろう。
それは方向性として否定しないが、それは新技術の寄与ではない。
今回導入される新技術の貢献は、あったとしてもおそらくそれほど大きくないと自分は見ている。