vsVaccine
ワクチン接種後のT細胞の活性化について調べた論文の件。

ワクチン懐疑派の中には、少し前まで「mRNAワクチンによって作られる免疫は抗体だけで、細胞性免疫はできないから、効果が小さい」などと言う人がいた。
彼らが何を根拠にそういっていたのかは知らないが、抗体の量が計測されていたのとは裏腹に細胞性免疫の活性化度合いは、それほど調べられていなかったせいかもしれない。

今回、Oberhardt et al (2021)で計測した、mRNAワクチン(ファイザーのBNT162b2)接種直後の細胞性免疫の活性化度合いは、普通に新型コロナに感染した場合と比べてどうだったのか
これは是非とも知りたいポイントだ。

彼らの計測結果によれば、HLA-ペプチド複合体に応答するT細胞の数は、ワクチン接種グループと自然免疫グループで比較すると、ワクチン接種グループの方が多かったという。

OberhardtFig4a-1
↑各種のHLA-ペプチド複合体に応答して結合するT細胞の数の比較。○がワクチン(ファイザー)の被験者、△が自然免疫の被験者。2回目接種or感染から80-200日の間の計測とのこと。

また、検出された細胞の増殖能力や、サイトカイン(情報伝達物質)放出能力を比較しても、ワクチン接種グループと自然免疫グループではほとんど差がなかったという。

OberhardtFig4d
↑左が増殖能力の比較、右がIFNγサイトカインを生産する細胞の割合(%)。

つまり、細胞性免疫の活性化度合いは、自然感染の場合とmRNAワクチンの場合とで、特に差がなかったといえる。
これはワクチンを接種したい人にとっては朗報だ。
Oberhardtらは、現状ではワクチンと自然感染で、細胞性免疫の”能力”は、ほぼ同等であるとしている。

ただし、ワクチンと自然感染とで、全くおなじ細胞性免疫ができるかというと、そうとばかりもいえないらしい。
上記の例よりももうすこし慎重なワクチン懐疑派の中には、「Sタンパク質に対してしか抗体が作られないmRNAワクチンは、自然感染やウイルス弱毒化ワクチンと比べて、効果や持続力が低い可能性がある」という主張をする人もいる。
長期的な免疫の持続力まで含めると、まだわからない部分もある。

実際、Oberhardtらの計測では、免疫記憶を担当するT細胞は、細胞の種類によっては自然免疫グループのほうが高い場合も多かったという。
つまり、(実質的に感染防御の割合や期間に影響があるかは今のところ不明だが)活性化される細胞の種類は、微妙に異なっているということだ。
このことは、ちょっと頭の片隅においておいてもいいかもしれないね。

ワクチンと自然感染で、どちらで作られる免疫のほうが有効なのかについては、最終的な結論が出るのは少し先になりそうだ。
だが、「mRNAでは細胞性免疫ができない」というような主張は、結果的には嘘だったことが示されたといえると思う。