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昨日紹介した通り、ワクチン1回目の接種直後から、たとえ中和抗体ができていなくても病原体に対する免疫は強化されている。
このワクチン直後の免疫の正体が不明であったが、T細胞による細胞性免疫はワクチン接種の数日後から活性化されていることが判明したので、正体はどうやらT細胞ということのようだ。

それにしても、T細胞が活性化されているかどうかなんて、どうやってわかるんだろうか

活性化の測定というなら、活性化された細胞に特徴的な遺伝子の発現量をはかるというのも一つの手だ。
でも、それだと、「何らかの活性化はされているけれど、本当に特定の病原体(この場合は新型コロナ) に対応できる能力を持ったT細胞かどうかわからない。

だが、昨日紹介した論文 [Oberhardt et al, (2021)]の筆者らによれば、「新型コロナ由来の抗原に、特異的に応答する細胞の数を計測した」ということを言っている。
どういうことなのかみてみよう。

OberhardtFig1ab
昨日も出した Oberhardt et al, (2021)の図である。

まず、「A02*/S269」とか書いてあるのが、T細胞が認識する「HLA・ペプチド複合体」を表す。
ちょっとややこしそうだが、それほど難しいわけではない。
 
免疫細胞によって取り込まれたウイルスは細かいペプチドに分解されて、「こんな異物ありましたけど?」と細胞表面に掲示される。
この掲示を行うHLAというタンパク質はA, B, Cなどいくつかの種類がある上に、個人や人種によって少しずつ形状が異なるいくつかのタイプがあるため、それぞれのタイプに固有の番号がつけられている。
上の表記でいう「A02*」の部分が「人間側のHLA-Aの2番によって掲示される」という意味だ。
で、S269というのが、「新型コロナのSタンパク質の269番目のアミノ酸のあたりのペプチド配列」と言う意味だ。(ペプチドというのはアミノ酸が数個つながったものだ)

だから、A02*/S269は、ざっくりいえば「人間側の掲示タンパク質とウイルス由来のタンパク質断片の複合体」
より詳細に言えば「人間側のHLA-Aの#02のタンパク質と、ウイルスのSタンパク質の269付近の分解ペプチドの複合体」というわけだ。

もし、人間の体のT細胞が新型コロナに特異的に応答するなら、(必ずしもS269ではないかもしれないが)T細胞はこうしたHLAとペプチドの複合体に結合するはずである。
そこで、HLA-ペプチド複合体を人工的に作成し、それに結合する細胞だけを集めてくることにしたのだ。

Tcell-HLA-tetramer1
↑活性化されたT細胞を集めてくる方法のイメージ図。粒沢作成。

この「HLAテトラマー法」(MHCテトラマー法ともいう)というのは25年くらい前に開発された方法なようで、製薬・試薬開発会社から専用のキットがいくつも出ている、わりとスタンダードな方法らしい。

そういうわけで、血液サンプルの中から新型コロナに対して活性化されたT細胞だけを回収し、数を数えることができるというわけだ。
活性化のON / OFFを、最終的にはプラスチックビーズに対する結合の有無の問題に変換している賢いやり方なわけだね。 

なお、同じ論文の中では、ワクチンによる免疫と自然感染による免疫の違いについても論じられており、そちらも興味深いのでちょいと紹介したい。

続く